おまけ 百井シロカの憂鬱

小森高校での昼下がり


「見て、百井シロカさんよ」


「相変わらず美人な上にすげー髪だな、肌しっろいし」


「この前の全国模試も一位? もう何連続目だよ」


「なんか大人の人が百井シロカとカフェで話してたって、なんか仕事がなんとか出版がどうとか」


「本書いてんの!? でもありそう」


「お前、話しかけろよ」


「いや、怖いよ。なんか信者がいてシロカさんに手を出したら、校舎裏に連れてかれるって噂だぞ?」


「部活なんにもしてないんだよな、すぐ帰っちゃうって」


「お父さんいないんだって、謎が多いよなあ」


「でも、とりあえず」


「「畏れ多くて近づけないよなあ」」





シロカは物憂げにスマホを眺めた。


一体、その明晰な頭脳でどれほどの叡智が巡らせれているのか、クラスメイトはただ見守ることしかできない。


シロカは少し、ため息をつくとメッセージを送信した。


『妹へ、帰りに卵と玉ねぎを買ってきてください』


『お姉ちゃまへ、今日はオムライスですか』


『生意気な妹へ、今日は親子丼です』


『親愛なる慈悲深きお姉さまへ、オムライスへの変更を希望します』


『変わり身の早い妹へ、昨日の味噌汁が余っているので残念ながら親子丼以外の選択はありません』


『頭の硬いお姉ちゃんへ、それでも別にいいと妹は思うのであった、まる』


『愚かな妹へ、残念ながら私の舌は既に親子丼なのです。家長の意見は絶対なのです。お小遣い減らしますよ』


『姉もとい独裁者へ、それはいくらなんでも人道に反すると思うのです』


1分後。


『お母さん、オムライスと味噌汁でもいいよ?』


百井シロカはため息をついた。


背後でクラスメイトたちがそのため息に一体どれぼどの意図が、思慮が込められているのか、必死に妄想している最中。


彼女は一つメッセージを飛ばした。


『妹へ、ケチャップ買ってきなさい』


『お姉ちゃんへ、これが民主主義の勝利だ』

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