第3話


 意味わかんない。意味わかんない! 


 なんで私が振られるの? 美少女の私が、どうして⁉


 警戒心を抱かせないために、惚れた理由もちゃんと言ったし、告白は完璧だったはず! なのに、なんで振られてるわけ?? 


 おかしい。絶対おかしい! 


 大体、二次元しか興味ないってなに? 私は二次元以下って言いたいの⁉


「ああ、むかつくむかつくッ!!」


 なんでストレス発散が、かえってストレスが増えるのよ。


 絶対、後悔させてやるんだから。


 二次元しか愛せないって言っても結局のところ三次元で相手されないから、二次元に逃げてるだけでしょ。


 だったら、意地でも私に惚れさせて、三次元に目覚めた後、盛大に振ってやる!


 私は、下唇を強く噛みながら、この上ない屈辱を味わっていた。



 ★



 翌日、私は打倒早坂を掲げて、正門の近くで待ち伏せをしていた。


 早坂くんが来たタイミングを見計らい、何食わぬ顔で声をかける。


「おはよう早坂くん」


「あ、えっと……涼峰さん?」


 は? 


 涼峰さん? 涼峰さんって誰? 


 もしかして‥‥‥私名前間違えられてるの?


 この私が? なんで?? 普通フルネームで覚えて当たり前でしょ⁉︎


 私は苛立つ頬を、愛想笑いを浮かべて相殺する。感情を押し殺しながら。


「涼風だよ涼風。涼風結衣。ちゃんと覚えてほしいなっ」


「あれ、ごめん。悪気はないんだ」


「あはは、ちょっと珍しい苗字だもんね。あ、そうだ。早坂くんさえ良ければ、下の名前で呼んでくれても大丈夫だよ。結衣だから、文字数少なくて覚えやすいんじゃないかな‥‥‥なんて」


「それで、なんか用でもあるのか?」


 無視かよ! 


 せっかく名前呼びできるチャンスを無下にするとか何考えてるの⁉︎


 ああ、朝からイラつく! でも我慢、我慢だよ私! 


「えっと、早坂くんのカノジョは無理でも、お友達から始めることはできないかなって思って。ダメかな。私と友達になるの」


「俺と友達になっても別に面白くないと思うけど」


「う、ううん、そんなことないよっ。私、早坂くんと話すの凄い楽しいし」


「変わってるな」


「そ、そうかなぁ……」


「まぁ別に友達になるくらいいいけど」


「ほんとっ? ありがと、じゃあ、まずはライン交換しよ」


 そう言うと、早坂くんは視線をあさってに逸らして「あー」と間延びした声をあげる。


「悪い、携帯持ってないんだ俺」


「そ、そうなんだ。珍しいね‥‥‥」


「よく言われる」


 くっ……完全に計算外だ。連絡先を交換してからのプランが全部パー。


 ここからどうやって話を展開してくか、考えていない。


 携帯持ってないって、なんなんだよ! つくづく私の神経を逆撫でしてくるな!


 私は、作戦を練り直すために、いったんこの場から離れることにした。


「あ、そういえば今日、日直だから早く行かないとダメなんだった! ごめん先行くね、早坂くん」


「ん、わかったじゃあな結衣」


 いや名前で呼ぶのかよ! なんなんだよもう!! 


 急に呼ばれたせいか、身体がびっくりして顔が熱くなっている。そう、ビックリしたせいだ。びっくりしたせいだからね? 


 決して、ドキっとしたわけじゃない。


 私は赤くなった顔を隠しながら、急ぎ足で昇降口に向かった。

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