3. ひとりぼっち
気付いたら校門の前にいた。アズちゃんが隣にいない。私が置いて行ったのか、そらともアズちゃんが私を置いて先に行ったのか。
無人駅の改札を抜けて、乗客の少ない電車に乗って。そこまでは多分、一緒だった。だとしたら、学校の最寄り駅で降りてからだろうか。
きっと、私が置いて行ったんだ。早足で、周りなんて見ずにここまで歩いてきてしまった。
私、ひどい。ひどい。だめだ。もうアズちゃんと話せなくなるかも。会えなくなるかも。
校門から教室に行くまでの道のりで、隣にアズちゃんがいないことなんて、今までで始めてだ。
新鮮、なんて全然思えない。ただただ自身に対しての憤りとか、後悔とか、絶望とかが湧き上がってくる。
悲しいし、寂しい。だけど、私はそんなこと思ってちゃいけない。悲しいし寂しいのはアズちゃんで、私がそうさせてしまったのだから。
アズちゃんに謝ろう。謝らなくちゃ。
昼休み。アズちゃんのクラスに大急ぎで向かう。
不安と焦りと、ちょっとの期待とひっそりとした絶望を抱えて。
いつものように、窓を覗いてアズちゃんの姿を探す。…いない。
いない?どうして。
わかってる。きっと、私に会いたくないからだ。わかってるよ、そんなこと。
「安土さん、4限目が終わったら急いで教室を出て行っちゃって。何かあったのかな」
1年生の頃同じクラスだった女の子が、いつもアズちゃんを
アズちゃんのクラスを後にして、とぼとぼ歩く。
いつもアズちゃんとふたりで座っていた中庭のベンチや食堂の長椅子に腰掛ける気にはなれなくて。
私、アズちゃんがいないとなあんにもできないんだな。だめだめだ。だめだめ星人……。
お腹が空いているのに、それさえも気にならないくらい、今はアズちゃんだけだった。私の意識の中にいるのは。
どうしよう。このままアズちゃんと一生話せないのかな。そんなの、そんなの。
嫌。
とぼとぼ。とぼとぼ。そんな風に歩いていると、無意識的に感情が溢れ出してしまいそうだった。必死にこらえる。
自分のクラスの教室で、ひとりぼっちのお弁当をめそめそ食べた。
清掃終了直後。私は迷っていた。いつものようにアズちゃんのクラスに寄るか、寄らないか。
アズちゃん、もう帰っちゃったかな。どうしよう。
でも。
もしかしたらいるかもしれない。
いなくてもいい。行こう。
アズちゃんのクラスに向かう道中、一歩進むだけですごく疲れた。
いなかったらどうしようという不安と緊張。もしかしたらいるかもしれないという期待。他にもいろんな感覚がぐちゃぐちゃと意識の中を泳ぎ回っている。
アズちゃんがいないとだめだなあ。
もう何度目になるかかわからない感想を、飽きずに浮かべた。
教室を覗いたとき、果たして、アズちゃんはいた。
いた、けれども。こちらには気づいていない。
誰もいなくなった教室にひとり。椅子に座って、顔を机に伏せている。
迷う。
声をかけても、いいのだろうか。
寝ているのか、それとももしかして、泣いているのか。どちらも違うかもしれない。
意を決して、教室のドアの、その銀色の境界線を私は踏み越えた。
1歩、2歩…。
アズちゃんがいる。すぐそこに。
拒絶されるかもしれないという不安が、どうしようもなく渦巻いている。何度
右から数えて四列目。前から二番目。
アズちゃん。
心の中で呼び掛けても、もちろん答えはなく。
怖くて声が出せなかった。聞こえているはずの声を無視されるのが怖い。
ごめんなさい。酷いことして。勝手に機嫌を悪くして、アズちゃんを置いて行って。
言わなきゃ。ちゃんと。伝えなきゃいけないのに。
アズちゃん、と今度は声に出して、呼んだ。
…チナちゃん。今日はもう来てくれないかと思ってた。一緒に帰れないと思ってた。
ごめんね。ひとりぼっちにして。勝手に怒って先に行って。ごめんね。
謝らないで。チナちゃんは何も悪くない。チナちゃんが先に行ったのは、私のせい。
違う。違うの、アズちゃん。私が本当に勝手だっただけ。ただ、それだけの話。アズちゃんが何で謝ってるのか、何に謝ってるのかわからなくて、アズちゃんに謝られるのが嫌だって思って……それで、アズちゃんを置いて先に行った。全部、私のわがままだったの。アズちゃんのせいじゃない。だから、もう絶対に、私に謝らないで。
……わかった。謝らない。
それでねアズちゃん。本当は何を言おうとしてたのか、教えて。
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