第13話 僕が僕であるために-最終話
「中学卒業まででいいわ。といっても、あたしが養って上げるとは言えないから、バイトの世話と、それと住む所を用意して上げるわ。もちろん、お金は払うのよ」
「そんなに稼げるの」
「あたしの親戚がアパートを持ってるの。そこに出世払いで住ませてもらうの。あなたが成人して働き始めたら、そこから返すってことでOKよ」
「本当にそんなうまい話あるの?」
「道楽でやってるようなトコだからね。朝夢見ちゃんがそうさせてもらってるの」
「あゆみちゃんって」
「三代目ファントムレディ」
「あぁ、そういや、そんなのもいるって聞いたことあるよ」
「バイトは、知り合いに当たってみるわ」
「いいよ。金ならあるんだ」
「でも、それは妹さんのために用意したんでしょ」
「どうして、知ってるの?あ、あの子、気がついたの」
「全部聞いたわ。その件も、あたしに協力させて。知り合いに警察官もいるし、力になれると思うわ」
「あんた、何者だ」
「ただのお節介オバサン」
「でも、何の得になるんだ」
「何にもならないわ。あたしには。でも、あんたには、いいんじゃないの、そのほうが」
「そりゃそうだけど」
「あたしは、やりたいようにやるの。何か文句ある?」
「いえいえ」
「何だったら、うちの学校に編入する?」
「あんた先生か。そういう感じもするな。でも、あそこ、試験あるんだろ」
「私立だからね。でも、きっとあの娘も喜ぶわ」
「会わす顔はないよ」
「会いにきたんじゃなかったの」
「それは、そうだけど」
「じゃぁ、覚悟しておきなさい。あたしが保護者になった以上、必ず会わせて上げるから。今から言う台詞を用意しておきなさいよ」
「編入させてくれるの」
「あたしを先生と呼ぶ覚悟あるなら」
「緑川先生、か。似合ってるね、なんだか」
由起子は笑いながら大島の頭をこづいた。
「さぁ、とりあえず、あの娘たちに会いに行きましょうか」
「いきなり?」
「そう。見舞いもかねて」
「あ、ネコ」
「どうしたの」
「ネコ置いてきちゃった」
「どこ?」
「あんたの学校の裏。荷物をテニスコートの裏に隠して、その近くに置いてきた」
「とりあえず、それを探しに行くのね」
「あぁ、全財産入ってるからね」
「どれくらいあるの?」
ぼそっと大島が言うと、由起子は呆れたように言った。
「あんたの方があたしよりお金持ちじゃないの。あきれたぁ」
由起子は大島を突き飛ばした。大島は、痛い痛いと言いながらも笑っていた。笑いながら、こうして笑うのは、いつ以来だったろうか、と思い出そうとしていた。
大島には由起子が眩しく見えて仕方なかった。街もいつもより明るく見える。今日の太陽は眩しい。
グリーンスクール - 僕が僕であるために 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
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