第3話 魔女の祠

 フェリスは洞窟の前に立っていた。


 肩口で切り揃えられた茶色の髪には、金のティアラが輝いている。白く神聖な長衣を身に纏い、右手には白銀の聖剣が握られていた。


 ここはロマール湖に程近い、魔女の棲まう魔性の山。その山の中腹に、この洞窟はあった。


 洞窟の前でひとり佇むフェリスは、もう一度後ろを振り返る。


 そこには、ここまでフェリスを運んでくれた一台の馬車と、王国の騎士団が並んでいた。


 フェリスの護衛として来てくれた彼らには、道中の魔物との戦闘で生命を散らした仲間もいる。


 それでもフェリスを見送る彼らの瞳には、皆、希望の光が満ちていた。


「ありがとうございます。いってきます」


 フェリスは深々と頭を下げると、踵を返して洞窟内へと歩みを進める。


 そうしてそのまま慎重に進み、やがて自身の背丈の倍ほどもある巨大な扉の前へと突き当たった。


「ここ…?」


 フェリスはそっと、扉に触れる。


 すると巨大な扉は音も無く、ゆっくりと中に押し開いた。


 その扉のあまりの抵抗の無さに、フェリスは一瞬狼狽える。それから呼吸を整えると、素早く身体を滑り込ませた。


 室内は、異様な空間だった。壁に吊るされたランタンが、紫の光を放っている。同時にフェリスの直ぐ真後ろで、扉の閉まる音がした。


 フェリスは両手で聖剣を構えると、広い室内に目を凝らす。すると彼女の視線の先に、白いシーツに覆われた、一台のベッドが目に入った。そして更にその奥に、闇の渦巻く巨大な壁がそそり立つ。


「誰?」


 そのとき部屋の奥のベッドの上で、ひとりの少女がその身を起こした。


「貴女が、魔女?」


「…………そっか、やっと…」


 少女はフェリスの言葉に微笑むと、ゆっくりとベッドの横に降り立つ。その姿は、不思議とフェリスの着ている長衣によく似ていた。


「覚悟っ!」


 フェリスは聖剣を突きの体勢に構え直し、一直線に少女に向けて駆け出していく。


 魔女は、相手の心を惑わす。


 フェリスが聖剣とともに授かった、教皇さまの大事なアドバイスだ。


 その姿を確認したら、一切耳を傾けず、ただ真っ直ぐにその心臓を差し貫くこと。


 フェリスは教皇の言葉通りに、聖剣を少女に突き立てた。聖剣の力が発動してか、魔女は抵抗らしい抵抗を見せなかった。


 少女の頭が、フェリスの左肩にのし掛かる。


 その時フェリスは、少女の首の後ろと奥の壁とを繋ぐ、赤く細長い管に気が付いた。


「ありがとう、ごめんね」


「え…⁉︎」


 その言葉を最期に、フェリスの腕の中で、少女の身体が霧のように消え去っていく。


 そして次の瞬間、


 チクリと走った首の後ろの痛みを最後に、フェリスは意識を失った。

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