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爽やかな土曜日の早朝だった。開店したばかり、まだ客の少ないマクドナルドで、榎本はテキストを広げていた。図書館が開くまで、ここで自習をすることが彼女の習慣だった。
ベーコンエッグマフィンをかじりながら世界史のワークを埋めていく。アーリヤ人は鉄器を使用し、牧畜を行い、讃歌を作り上げ……
ふと手元に影が落ちる。顔をあげると、テーブルの脇に男が立っていた。
「榎本さん?」
男は樹だった。榎本は樹の追っかけファンではないが、その存在は知っていた。翔くんのお兄さんで、かっこよくて、陸上部に所属している。3年生のマネージャーと付き合っているらしいと、誰かが言っていた。
その樹さんが、どうしてここに?
「あ、えと、こんにちは」
「おはよ。ここ座っていい?」
「え、はい」
榎本が許可を出す前に、樹はすでにテーブルの向かいに座っていた。樹はトレイの上に紙コップとミルクポーションとマドラーを乗せていた。中身はおそらく、ホットコーヒーだろう。
「勉強してるところごめんね。別に、たいした用事があるわけじゃないから」
樹はそう言いながら、ホットコーヒーに手をつけず、胸ポケットからボールペンを取り出した。細身の黒ボールペンだ。親指で芯を押し出すと、柄の中心を握り込んだ。強く。
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