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「それで、結局なんもわかんなかったわけだ」
「うんまあ」
その後、スマブラ会で葵にミナミさんのことを報告した。樹はミナミさんにはまったく興味なし。彼女いるかどうかも分からん。ミナミさんはなんとなくオレを避けているように感じる。オレばっかりが割を食わされている気分だ。いったいなぜ。
「あ」
「っしゃ」
オレの油断に気づいたのか、クラウドの脳天に連続下Bをもらった。カービィが奇声をあげながらクラウドの頭を踏みつけている。ドシドシドシドシ!!
「さすがに上の空すぎませんか?」
「手加減してくれ〜」
「手加減すると文句言うだろ」
話題は今朝ニンダイで発表された追加DLCに移った。新しいファイターが発表されたのだ。オレも葵もやってないゲームの男主人公で、あんまり興味はないけど、性能次第で使いたい、みたいなそんな話。
葵と次のDLC予想でああだこうだ言っているとき、オレは気が付かなかった。オレたちを見つめるーー第三者の視線に。
「ね、翔くん」
「あ?」
音楽室への移動中、だらだら廊下を歩いているときだった。榎本さんが話しかけてきた。
榎本さんはなんかこう、目立たないタイプの女子だ。言われれば思い出す、程度の。特別好きってわけでも嫌いってわけでもない、分からん女子。榎本さんは遠慮がちにオレに話しかける。
「あのさ、最近葵くんと放課後にスマブラやってるでしょ?」
「えーうん」
「私も対戦してみていい?」
「スイッチあんの?」
「今日持ってきた。お兄ちゃんのこっそり借りてる」
「なんか雑魚そう」
「練習してる!」
榎本さんはそう言って笑った。それがなんだかヤケに自信がある態度に見えて、オレは急に不安になる。これで榎本さんにも負けたらますます葵に馬鹿にされそうで嫌だ。でも申し込まれた以上断る理由がない。
榎本さんが全然強かったらどうしよう、と不安になる。それでもオレは腹を決めて承諾した。戦ってみないことには、何もわからないからだ。
「えっぜんぜん弱いじゃん。ヨワ」
「うるさいな!」
しかし、榎本さんはマジでスマブラが下手だった。まず各ボタンの役割がわかっていない。適当にガチャガチャ操作していれば技が発射される、程度の認識しかない。
「もうアイテム取るから」
「待って待って!」
待てないのでアイテムを取って難なく最後の切り札を発動させた。仕上げにクラウドがピチューを打ち上げてざくざく音をさせて切り刻む。凄まじい勢いでピチューが場外にふっとばされ、あとに紙吹雪が舞った。榎本さんは呆然として画面を見ている。あまりの実力差になんともアドバイスしようがなくて、とりあえず事実を述べてみる。
「まだ対人レベルじゃない。コンピュータのほうがぜんぜん強い」
「そーなんだけどさ…」
どうしても人相手に対戦してみたかった、と榎本さんは言う。
「オンラインに潜ると秒殺されるから、なんか味気なくて。でもお兄ちゃんもぼっこぼこにするから。ぜんぜん勝たせてくれない」
「オレならいけると思った?」
「うん…」
「葵がうまいだけで、オレだって普通だよ。ただ榎本さんがスッゲ弱いだけ」
そう言うと、榎本さんが肩を落とす。あんまりな言いようだったろうか? しかしタフなことに再戦を申し込んできたので、ありがたく3−0でボコボコにさせてもらった。近寄ってコマンドを叩き込むだけ。それだけなのに、榎本さんはアワアワ言っている。
……葵も普段、こんな気持ちでオレと戦ってるんだろうか?
「クラウドやめた?」
「えー? ああうん。まあ飽きた」
その夜、樹とスマブラをしたとき、オレは試しにピチューを使ってみることにした。
ピチューは超軽量級ですばしっこいことを売りにしている。重い一撃はできない代わりに、細かく動き回ってちくちく刺す。でもやっぱり軽量級のキャラは扱いにくい。ちょっと攻撃が当たると、簡単に吹っ飛ぶ。地に足がつかない感じ。
オレは凶斬り使いたいな〜と思いながらかみなりをクルールに落とした。
「当てやすくて結構いい。自傷ダメあるけど」
「判定広いから逃げらんね」
クルールがピチューに掴みかかり、足蹴にした。甲高い悲壮な鳴き声がする。ピチューを甚振るクルールという絵面は、なかなかえぐい。そう伝えると、樹は事も無げに言ってのける。
「かわいくても害獣だろ? ネズミなんだから」
「ひっで」
あんまりな言いようだ。樹の追っかけたちが聞いたらどう思うんだろう?
「すっげ使いにくそうだけど、まだそのネズミ使うの?」
「んーやっぱやめる。あとでクラウドに戻す」
樹はオレがピチューを使ったことに不満があるらしい。オレがよっぽど下手くそなのが目に余ったんだろう。やっぱり持ちキャラというのはそうそう変えるもんじゃない。
次のラウンドでクラウドを使うと樹にあっさり完勝できたので、浮気してごめんな、と胸中で謝罪の言葉を述べた。クラウドは画面の中で、誇らしげに胸を張っている。
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