4-6. 魂の故郷
やがて、何かが見えてきた。
それは中央が塔のようになった、巨大な花だった。
五十メートルはあろうかと言うその花は、薄暗い巨大な洞窟の中に咲いており、中央の塔がめしべのような形で、明るい光の球を内包していた。花びらはキラキラと鮮やかな色で無数のきらめきを放ち、甘い香りを漂わせている。
「うわぁ……」
レオはその幻想的な風景にしばし見とれていた。そして、しばらく見ているうちに自然とそれが何だか分かってしまった。それは魂の故郷だった。花びらの無数のきらめき一つ一つがそれぞれ誰かの魂の喜怒哀楽を表しているのだ。
生きとし生けるものの魂はここで管理され、喜怒哀楽の輝きを放ちながら他の魂と共鳴するのだ。
「綺麗……」
レオはそのきらめきを見ながら自然と涙をこぼしていた。
生命の営み……、この星に生きる全ての人たちの心の物語は、この花できらめきとなって紡がれている……。
命はかくも美しく、幻想的な輝きだったのだ。
そして、自分たちの勝手な都合で、この輝きを消しちゃいけないと改めて誓った。
レオは思念体となってふわふわと花の周りを飛んだ。蛍のような光の微粒子がわらわらとまとわりついてくる中を、ゆっくりと一周してみる。まるで光のじゅうたんのような花はどこから見ても気品高く、心に迫る美しさにレオはゾクッと
◇
花の脇に降り立つと、花は巨大なテントのようにその花びらを大きく広げている様子が見て取れた。とても立派な構造物である。
「で、どうするんだろう?」
レオは短剣をどう使ったらいいのか悩んだ。すると、思念体の手に短剣がぼうっと浮かび上がる。
柄のところの赤い宝石がキラキラと輝き、刀身は青く蛍光していた。
「うわぁ、綺麗……」
レオは短剣を見つめる。記憶にない父から譲り受けた短剣、父はこれで何をやっていたのだろうか……?
短剣は斬るものであるから何かを斬るのだろうが……、一体何を?
レオは試しにビュンと短剣を振ってみた。
すると、ビシュッ! という手ごたえがあり、レヴィアがやっていたように空間に切れ目が入った。
「わぁ! これだ!」
レオはそっと切れ目に手をかけて、切れ目を広げてみる……。
切れ目の向こうには年季の入った宿屋の建物が建っていた。
「えっ!? こ、これは僕んちじゃないか……」
レオは驚き、切れ目を押し広げて体を通し、宿屋に近づいてみる。
それは戦乱で焼けたはずの懐かしいレオの実家だった。
レオはひざからガックリと崩れ落ちた。
「マ、ママ……、うっ……うぅぅぅ……」
あの日、レオは全てを失った。
レオの脳裏に燃え上がった宿屋がフラッシュバックし、思わず頭を抱え、しゃがみこむ……。
「マ、ママぁ……」
激しい頭痛がレオを襲いポタポタと涙が落ちる。
その時、宿屋のドアが開いた。
「えっ?」
見上げると、そこには男性が立っていた。ひげを蓄えたガッシリとした彼は優しい目でレオを見つめた。
レオはその人に見覚えがあった。それは夢に出てきた男性だったのだ。
「レオ、よく頑張ったな」
男性はしゃがんで両手を前に差し出した。
「パ、パパ……なの?」
レオは信じられないといった表情で聞いた。
「そうだ……。守ってあげられずに……、ゴメン」
男性はそう言って申し訳なさそうにうつむいた。
レオは軽く首を振りながら男性を見つめた。
男性はちょっとはにかんで、また両手をレオに向けて開いた。
「おいで……」
「パパぁ――――!」
レオは駆けだすと思いっきりパパに飛び込んだ。
パパはしっかりと抱きしめ、愛おしそうに頬ずりをした。
「うわぁぁぁ、パパぁ――――!」
レオは泣いた。シングルマザーで苦労しながらも、弱音一つ吐かなかったママの愛した人、そして、時折ママが自慢していたレオのルーツとなる男性。ずっと気になっていたパパについに出会えたのだ。レオは泣いた。オイオイとみっともない姿で大声で泣いた。
パパはそんなレオを何も言わずギュッと力強く抱きしめた。
レオに託されていた形見の短剣は、絶体絶命のレオに土壇場のところで奇跡を起こしたのだった……。
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