4-5. 託されたカギ

 オフィスビルの地下室に三人は軟禁された。

「とんでもない事になっちゃった……」

 レオは頭を抱える。

「レヴィア様の警告を生かせなかった……。ヴィクトーたちはお父様たちを襲うつもりだわ、何とかしないと……」

 オディーヌは真っ青になって言った。

「何とかって……何か方法あるの?」

「シアンさんかレヴィアさんを呼べれば解決ですが……」

 零はそう言うものの、呼ぶ方法がない現実に肩を落とした。

 レオたちはスマホも取り上げられ、外界とは隔絶されてしまっているのだ。

「何か方法ないかなぁ……」

 レオが頭を抱えながら言う。

 三人は黙り込んだ。

 どこかの換気扇のグォーンという鈍い音が、かすかに地下室に響いている……。


「あの……、この世界は幻想だって……言ってましたよね……」

 零が歓迎会の時のことを思い出して言った。

「そうね、情報でできてるって……」

 オディーヌも思い出して言った。

「シアンは『知れば操作できる』と言ってた……」

「この世界を知る……、一体どうやって?」

 零が聞く。

「呼吸がカギだって……言ってたわ」

「呼吸!? 知る事と呼吸と何の関係が?」

「分からないわ、でも肺が唯一動かせる内臓だって……」

「なるほど……、瞑想……かもしれないな」

 零は腕組みをして言った。

「瞑想?」

 レオが聞く。

「心を落ち着かせると無意識の中が見えてくるんだよ。そこがカギになってるのかもしれない」

「じゃあ、やってみよう!」

 三人は零の『瞑想のやり方』の記憶を頼りに椅子に浅く座り、背筋をビンと伸ばしてゆっくり深呼吸を繰り返した……。


「なんかボーっとしてくるけど、世界のことは分からないね……」

 レオが言う。

 するとオディーヌが変な口調で話し始めた。

「なんじゃお前ら、捕まったのか、しょうがないのう……」

「レ、レヴィア!? レヴィアなの?」

 レオが驚いて聞く。

「いかにも我じゃ。じゃが……、議会の総意が正義である以上、我も介入はできんぞ」

「そ、そんなぁ……、多くの人が死んじゃうよぉ!」

「それが人々の総意なら止められんのじゃ」

「レヴィアひどい!」

「ひどいって言われてものう……」

「瞑想するのは正解ですか?」

 零が横から聞く。

「いかにも正解じゃ……。ついでに一つだけヒントをやろう。レオの短剣、それがカギになっとる。上手く使えよ」

「えっ? 短剣!?」

 レオは腰のベルトに付けておいた短剣を取り出して眺めた。しかし、それはただの剣だ。瞑想でどう使うのか分からない。

「ねぇ、どうやって使うの?」

「瞑想を極めたら自然と分かるよ。これ以上は言えん。健闘を祈っとるよ」

 そう言うとオディーヌはぐったりと倒れた。

「これがカギ……」

 父の形見だとママに渡された短剣。まさかそれがこの世界のカギだったとは……。思いもかけなかったことにレオはしばし呆然ぼうぜんとして短剣を眺めていた。

 零は、気を失ったオディーヌを丁寧に横たえると、言った。

「レオさん、カギを使いましょう!」

「う、うん……。瞑想してこれを使うとシアンみたいになれる……ってことだよね?」

「そうだと思います。ヴィクトーを止めましょう!」

 レオは短剣を握り締め、再度深呼吸を繰り返した。


 ス――――、フゥ――――。


 ス――――、フゥ――――。


 何度か繰り返すものの、雑念が邪魔をして一向に瞑想状態まで行けないレオ。

「ダメです、どうやるんですか?」

 レオは泣きそうになって零に聞いた。

「焦らなくていいんです。雑念が湧いてもいいんです。雑念が湧いたら『これは横に置いておこう』って思ってまた深呼吸するといいんです」

 零は以前読んだ瞑想のやり方を思い出し、伝える。

「分かったよ!」

 レオは再度深呼吸を始めた。


 ス――――、フゥ――――。


 ヴィクトーの顔がチラついたが、それを横に流し、

 ス――――、フゥ――――、と深呼吸を続けた。


 やがてフワッと体が浮き、スーッと落ち込んでいく感覚がした。

 レオはそのまま深呼吸を続ける……。

 どんどん、どんどん、落ちて行く……。

 それは今までにレオが感じたことのない感覚だった。

 レオは恍惚とした表情でさらに深い所を目指す……。

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