1-3. おぞましい漆黒の球
「シアン。助けよう!」
レオはシアンの手を取って頼む。
「分かった。でもレオもちゃんと損してよ!」
「え? わ、分かった。何をすれば?」
シアンはニコッと笑うと、レオに両手をかざし、何かをぶつぶつとつぶやく。すると、レオの身体がぼうっと光った。
「これでよし。これで、レオの身体は物理攻撃無効。どんな攻撃受けても無傷だよっ!」
「物理攻撃無効?」
レオが首をひねっていると、シアンはレオのわきの下を持って、身体をひょいと持ち上げ、
「ちょっと敵の注意を引いておいて!」
と、言いながらブウンと一回転振り回すと、そのまま追手に向かってすごい速度で放り投げた。
「え――――っ!?」
レオは手足をバタバタさせ、叫び声をあげながら王女の上を飛び越え、追手の先頭の男に思いっきりぶつかった。
「ぐはぁ!」
ぶつかって吹き飛ぶ二人は後続の二人にも当たり、全員ゴロゴロと転がる。
「ぐわぁ!」「ぐはっ!」
まるでボウリングだった。
「シアン、ひどいなぁ……」
そう言いながら、砂だらけになった体をゆっくりと起こすレオ。
「あれ? 痛くない……」
レオは自分の身体をあちこち見ながら立ち上がる。
「こ、このガキが! 何しやがる!」
男はよろよろと立ち上がり、剣先をレオの顔の前に突きつける。
「あ、これは僕がやったんじゃないよ!」
レオは後ずさりしながら首を振った。
◇
王女は、手招きしているシアンを見ると、走りながら
「助けてー!」
と叫び、手をシアンの方に伸ばす。
シアンはニコニコとしながら、王女の手を取ると、
「危ないから、ちょっとこっちで待ってて」
と、いいながら手を引いて池の上を歩いて行った。
二人は水面を歩き、足跡の波紋が点々と広がっていく。
「えっ!? 水面……よね!?」
驚く王女にシアンは言った。
「冬になったら凍って水面歩けるでしょ?」
「ええ、まぁ……」
「だから、歩くたびに『今は冬だよ』って足元の水に話しかけるんだよ。すると歩けるのさ」
シアンはニッコリと笑って言う。
王女は初めて聞く話に驚いた。
「え!? 本当ですか?」
「嘘だけどね、きゃははは!」
シアンはすごく楽しそうに笑い、王女は渋い顔をする。
「じゃ、ここで待っててね」
シアンは池の中ほどに王女を立たせると、ツーっと上空へ向かって飛んで行った。
「あっ、待って……」
王女は心細げに手を伸ばしながら、この不可思議な少女をどうとらえたらいいのか困惑する……。そして恐る恐る足元の水面を見つめた。
◇
レオは剣を持った黒装束の男たちに囲まれている。
『助けて』と言ったのはレオだったが、まさか放り込まれるとは思っていなかった。あまりにも無茶苦茶なシアンの行動にレオは心臓が止まりそうだった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
おびえながら両手を前にして、何とか説得しようとしたレオだったが、
「問答無用!」
そう言って男は剣を振りかぶり、一気に
とっさに腕でかばうレオ。
パキィィン!
甲高い金属音がして剣は割れ、刀身はクルクルと宙を舞って地面に刺さった。
「へ?」「あれ?」
驚くレオと黒装束の男たち。
「セイヤ!」
後ろから別の男が剣で斬りかかったが、また剣は割れて刀身は飛んで行った。
奇妙な沈黙が場を支配する。
剣が効かない少年。一体、何をどうしたらいいのかわからず、男たちは
すると、空からバチバチバチッと激しい破裂音がして、雷のようなまばゆい閃光が辺りを照らす。
みんなが音の方向を見上げると、そこにはシアンが両手を向かい合わせにして浮いていた。そして手の間には激しい閃光があがり、直視できない程のまぶしさで輝く。
「な、なんだありゃぁ!」
黒装束の男たちは声をあげながら、本能的に危険を感じ、目に恐怖の色を浮かべた。
まばゆい輝きはさらに強烈になり、天も地もすべて激烈な輝きに埋め尽くされ、みんな目を覆う。
「うわぁぁぁ!」「なんだこりゃぁ!」
いきなりやってきた、この世の終わりのような光の洪水にみんな恐怖に震えた。
直後、輝きはいきなりおさまる――――。
みんな、恐る恐る空を見上げた。
そこでは、シアンが何やらおぞましい漆黒の球をかかえ、
「
と、響き渡る声でうれしそうに笑う。
シアンは地球と同サイズの星を約二センチメートルくらいに圧縮し、ブラックホールにしたのだった。地面に落ちないようにコントロールしているが、その強烈な引力は常識を超える力で空間すら歪ませていた。
その場にいるものは皆、見たこともない恐るべき脅威に戦慄した。
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