1-2. 襲われる王女
まずは、レオの奴隷契約を解消しないとならない。二人は街に向かって歩き出した。
「国を作るなら衣食住をどうするか考えないと……」
レオは首をひねる。
「それだけじゃダメだよ、水道もトイレも、道も畑も、堤防も家もぜーんぶ作んないと!」
シアンは両手を広げてうれしそうに言う。
「えー! 全部!?」
「レオ? 国っていうのはそういうものだよ! それに、そんなのは簡単な話。僕がパパパッて作ってあげる。でも、人やシステムの問題は大変だよ。住民をどうやって集めるか? 法律や警察や役所や……、裁判所に軍隊をどう作るか? 産業も立ち上げないとだから貨幣や銀行や税金も! もー大変!」
「うわぁ……。人は身寄りのない子供たちを集めようかと思ったんだけど……」
「いい手だと思うけど、子供たちだけ集めたって国にはならないよ?」
「だよねぇ……」
「いっそのこと、この国乗っ取っちゃう?」
シアンは悪い顔をして言った。
「えっ!? そんなことできるの?」
「レオが望むなら軍隊を無力化してあげるよ」
シアンはニコニコしながら言った。
「それって……、軍隊相手に勝つってこと……だよね?」
「ふふっ、僕は星ですら消せるんだよ? 軍隊なんて瞬殺だよ!」
そう言ってシアンはドヤ顔で胸を張った。
「すごいなぁ……。シアンは神様なの?」
さっきの不思議な世界といい、シアンの存在は人の領域を超えている。
「僕はそんなに神聖じゃないよ。でも、神様よりは強いかな?」
自慢顔のシアン。
「神様より強いならもう神様じゃないの?」
「そうかなぁ? シアンはシアンだよ」
そう言ってシアンはニコニコする。
「それにしても国を乗っ取る……かぁ……。それって楽しいかなぁ?」
首をひねるレオ。
「うーん……、軍隊倒すのは楽しいけどねぇ……」
「僕は楽しく国づくりがしたいんだよ」
レオはそう言ってニッコリした。
「ふぅん。なんだか君はずいぶんとマトモだね……」
シアンは首をかしげた。
奴隷でこき使われ続けてきたレオにとって、神様より強いというシアンの存在は全く別世界の話であり、想像を絶していた。でも、自由の国を作るというただの思い付きが、シアンの圧倒的な力によって現実性を帯びてきてることに、レオはワクワクが止まらず、思わず両手のこぶしをグッと握った。
◇
パカラッ! パカラッ!
馬が走ってくる音が響いてきた。
「あ、馬車だ! 危ないよ」
レオはシアンの手を引いて道の脇に避けた。
豪奢な金属製の鎧を身にまとった騎士が乗った騎馬が四頭、それに続いて馬車がやってくる。豪華な装飾のつけられた馬車には王家の家紋があしらわれ、どうやら王族が乗っているらしい。
俺たちは馬車を見送り、舞い上がった砂ぼこりを手で払った。
ヒヒヒーン! ヒヒーン!
向こうで急に馬たちがいななく。
何だろうと思ってみると、黒装束の集団がいきなり騎馬の前に飛び出し、交戦を始めた。馬車も急停車すると、黒装束の連中に囲まれ、ドアを壊されていく。
「うわっ! 大変だ! 襲われてるよ!」
レオは叫んだ。
「ありゃりゃ」
シアンは淡々と言う。
騎士たちは健闘したが、多勢に無勢。やがて次々と引きずり降ろされ、倒された。このままだと馬車の中の王族もやられてしまうだろう。
「何とか助けてあげられないかな?」
レオが
「助けると面倒な事になるよ? 割に合わないよ」
シアンは肩をすくめていう。
するとレオは真剣なまなざしで言った。
「シアン、それは違うよ。人生は損得勘定しちゃダメなんだ」
「へっ?」
「『いい損をしな』ってママが言ってたよ」
「いい損……?」
「
レオはそう言ってジッとシアンを見つめた。
「へぇ……、確かにそうかも……。君はすごい事言うねっ!」
シアンはすごく嬉しそうに言った。
「へへっ、ママの受け売りだけどね」
レオは照れ、そして目をつぶってちょっとうつむいた。
「で、損するのはいいんだけど……。僕、手加減できないからあいつら死んじゃうよ?」
シアンは物騒なことを言う。
「なるべく殺さないように収められる?」
レオはシアンに聞いた。
「うーん、殺さないようにかぁ……。君は面倒な事を言うねぇ」
シアンはちょっと考え込む。
と、その時、馬車の後ろの小さな非常口がパカッと開いて少女が出てきた。少女は美しい金髪を綺麗に編み込み、白く美しい肌が陽の光にまぶしく見える。そして、ピンク色のワンピースで胸の所に編み紐が付いている豪奢な服を着ていた。
「あっ! 王女様だ!」
レオは叫んだ。レオはパレードの時に、遠巻きに彼女を見たことがあったのだ。
美しく品のある王女は街のみんなのアイドルであり、話題の美少女である。もちろん、レオも大好きだった。レオはそんな王女の危機に思わず心臓がキュッとなって真っ青な顔をする。
王女は必死にこっちの方に逃げてくる。
しかし、黒装束の男たちも見逃さなかった。
「逃げたぞー!」
という声がして、三人が剣を片手に追いかけてくる。
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