1-4. 圧倒的な物理

「ま、魔女だぁ!」


 レオを囲んでいた者たちは、馬車の方へと一目散に逃げだした。




 その様子を見ていた黒装束の男たちの頭目は、


「また、怪しい魔術師が出てきやがった……。だが、うちにも先生がいる! 先生! お願いします!」


 そういって、傍らの黒ローブの男に声をかけた。


 だが、男はシアンを見ながら顔面蒼白になっている。そして、


「あ、あれは違う……。あれは魔術じゃない……魔力が一切感じられん」


 と、いいながら首を振って後ずさった。


「え? 魔術じゃなきゃ何なんですか?」


「わからん……。あえて言うなら……、物理?」


「物理……? 何ですかそれ?」


「自然の力だ。だがあんなに桁違いの力、ありうるのか? 信じられん……」


 ローブの男は冷や汗を浮かびながら呆然ぼうぜんとしてた。


「先生、ごちゃごちゃ言ってないで倒してくださいよ! 高い金払ってるんですぜ!」


 頭目はイライラしながら叫んだ。


「くっ……。知らんからな!」


 そう言うと男は杖を振り上げ、呪文を唱えはじめた。


 すると、シアンに向けて巨大な真紅の魔法陣が高速に描かれ始める。高周波がキィ――――ン! と鳴り響き、周囲の空気も張りつめてくる。


「うほぉ! さすが先生!」


 頭目は上機嫌だ。




 魔法陣が完成すると男は、


灼熱槍フレイムランス!」


 と叫んだ。すると、魔法陣からまぶしく光り輝く巨大な豪炎がシアンに向かって一直線に飛んだ。


 周りの男たちも、


「おぉ!」「うわぁ!」


 と、歓声を上げる。




 シアンはすっ飛んでくる鮮烈に輝く炎の槍を見ると、うれしそうに、


「えいっ!」


 と、言いながら、殲滅暗黒ブラックホールを槍に向かって投げた。


 殲滅暗黒ブラックホールは炎の槍にぶつかろうとする瞬間、ヒュォン! と鈍く響く音を残し、跡形もなく炎の槍を飲み込んだ。




「えっ!?」「はぁ!?」


 頭目も男たちも驚き、言葉を失う。




 殲滅暗黒ブラックホールはそのまま一直線に飛び、途中で他の男たちを追い越しながら、追い越しざまに




 ヒュン! ヒュヒュン!


 と、音を立てて男たちを吸い込んでいく。




 それを見た黒ローブの男は焦って叫んだ。


絶対防壁パーフェクトシールド!」


 すると殲滅暗黒ブラックホールに向けて巨大な黄金の魔法陣が展開し、防御態勢となった。


 だが、殲滅暗黒ブラックホールはあっさりと魔法陣をヒュン! と、瞬時に飲み込み、黒ローブの男に迫る。


「だから嫌だったんだよぉ! うわぁぁ!」


 男は断末魔の叫びを残しながら、頭目と共に殲滅暗黒ブラックホールに飲まれて消えていった。




「そんなの効かないよ。そもそもその魔法陣、僕が考案したんだから」


 シアンはドヤ顔でそう言った。


 


 殲滅暗黒ブラックホールはそれだけでは飽き足らず、さらに周囲を徘徊しながら馬車も他の男も倒れてる騎士も次々と吸い込み始めた。


「うわぁ!」「何だこれはぁ!」


 悲鳴をあげながら逃げ惑う男たちも次々と飲み込まれていく。


 まさに地獄絵図が展開された。




「え……?」


 レオは何が起こったのか良く分からなかった。




 ゴ――――ッ!




 殲滅暗黒ブラックホールの吸引力はどんどん強まり、まるで竜巻のように周りの空気が轟音を立てながら殲滅暗黒ブラックホールに吸い込まれ始める。




「ヤバい! ヤバい!」


 危険を感じたレオは、どんどん強くなる暴風の中必死に逃げだした。


 シアンが飛んできてレオに追いつくと、


「なるべく殺さないように収めたよ」


 と、ニッコリと笑って言う。


「分かった、分かったからこの風止めて!」


 砂ぼこりが吹き付けてくる中でレオは頼む。


「わかったよ!」


 シアンはそう言うと、殲滅暗黒ブラックホールに手を向け、フニフニと不思議なしぐさで動かした。


 殲滅暗黒ブラックホールは動き回るのをやめ、吸引力も徐々に落ち、風も収まっていく。

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