拾陸ノ妙 四つ足憑き
動物の強い怨念を引き出し怨霊と成るほどまで増大化した上で、その怨霊を神のごとく
それにはまず、
強い怨念を引き出すためには、やや知能の高い動物を選ばなければならない。
さらに、人に対して従順な上、人との間に心を通わせることが出来れば、なおのこと良い。
そういう意味で、犬は、特に打って付けともいえる動物だ。
この最悪の呪術は、その動物の心をも利用し怨霊へと転化させる。
そして、犬の怨霊を
十分な食べ物を与え、健康に気を配り、
その月日の間に、強い絆や信頼を勝ち取ることも出来るだろう。
絆や信頼が強ければ強いほど術の成功率は高くなる。
ただ、術者の方は、絶対に動物に感情移入してはならない。
忘れてならないのは、目の前の動物は、
十分に成長した頃合いを見定め、術の中核となる部分に進んでいく。
ことを円滑に進めるために、まず、動物の尻が入るほどの
この
優しく抱きしめて
次は、胸の高さ。
さらに次は、首の高さ。
穴から頭だけが出ている深さになったら、食べ物を食べている間に、穴を埋めてしまう。
丁度、頭だけが地面から出ている状態だ。
そして、このときが最後の食事となる。
次からの食べ物は、生き埋めになっているが
空腹が増すほどに、必死に
狂ったように、
その狂気に満ち、
その生き物は、最後の力を振り絞って牙を
呪いと怨念が頂点に達したとき、
その呪いと怨念の
一度、生み出された
しかし、犬飼さとみの家は、
さとみと
そして、その出会いは、必然的とも言えるものだったのかもしれない。
犬飼さとみの心の内なる情念が怪異を引き寄せ、怪異もまたその情念に感応し
そして、怪異は人の思いや願いを具現化し、望まれた
その日も授業後、いつも通り、さとみは美術室で作品制作に打ち込んでいた。
ふと眼をやると、少し離れたところで絵を制作している白石美咲の姿。
その周りには、多くの部員が集まっている。
ただし、それは特別なことではなく、
「さすが、美咲ねー」
「今年のコンクールも、やっぱり美咲だなー」
美咲のキャンバスを
白石美咲は、さとみにとっても仲の良い友人であり、また、最大のライバルでもあった。
「ふぅー」
さとみは、深く息を吐く。
さとみは、道具などを、あらかた片付けると、スクールリュックを背負う。
スクールリュックには、猫のチャーム。
美咲たちを横目に見ながら、さとみは美術室を出た。
さとみの父は、某大企業の社長であり、幼い頃から父のさとみに対しての対応は、大変厳しいものがあった。
さとみは、勉学、スポーツ共に優れているのだが、父は、どんなことでも一番でなければ、認めてくれることはなかった。
父は常に忙しく、さとみは、両親と一緒に遊んだ記憶がほとんどない。
唯一の記憶が、幼い頃、絵のコンクールで金賞を受賞したとき、ご
父と母の優しい笑顔と楽しい一日。
キラキラと光り輝き、金や赤に彩られた王冠や王家の意匠を模した紋章、上下に躍動する白馬が光の渦の中をまわり続ける。
さとみは、この時のメリーゴーランドを今でも細部まで思い出すことができる。
この一日が、ずっと終わらなければ良いと幼心に思ったものだった。
幼い頃の一番幸せな両親との思い出。
今も絵を描き続けているのは、この出来事があったからなのかもしれない。
さとみは思う。
――最優秀賞を取れば、また、
しかし、白石美咲の絵は、さとみから見ても素晴らしい作品である。
――美咲は、いつも一番。
私は、いつも二番。
美咲がいる限り、いつも二番。
美咲がいる限り……。
美咲がいる限り……。
美咲がいなければ……。
さとみは、頭を左右に振り、考えを振り払う。
――何てことを考えているのだろう。
自宅とは方向が違うが、頭を冷やすには丁度いい。
さとみが公園脇の道路に差しかかったとき、純白の
スクールリュックの猫のチャームが揺れる。
子猫は、かなり
「ねこさん。大丈夫?」
「ミィ~」
さとみは、引き寄せられるように子猫に近づくと、
「そうだ」
さとみは、少し考えると、スクールリュックのポケットからビスケットを取り出し、子猫に分け与える。
子猫の瞳に心を丸裸にされたような感覚に
――美咲がいなければ……。
美咲がいなければ……。
美咲がいなければ……。
美咲が、美咲が、美咲が、美咲が、美咲が……。
さとみの容貌が、
さとみに抱きかかえられた子猫の姿も、妖気を
先ほどまでの子猫の姿からは想像できないほど、
ミギャギャギャー。
薄気味悪い
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