第3話 自己紹介カード
新年度のはじめ、よくクラス全員にカードが配られてそれに自己紹介みたいなことを書かされる。趣味、特技、性格、長所、短所などね。その紙がしばらく教室に貼られていて、知らなかった人のことが多少わかるようになっていた。
松原とYくんだと名前順であれば席が近い。
新入生のとき、どうゆう並びだったか、Yくん、僕の隣に座っていた。
その自己紹介カードを、Yくん、がんばって書いていた。
ただ書きながら
「ねえ、しゅみってなあに、とくぎってなあに、ちょうしょとたんしょってなあに…」
とひどく悩んでいた。おそらく意味がよくわからなかったのだろうね。
僕は、趣味=好きな事、特技=得意な事、長所=自分のいいところ、短所=自分の悪いところ、と急いで教えてあげた。
趣味…【あそび】、特技…【でんぐりがえし】、
性格…【 】、長所…【 】、
短所…【べんきょう、くく】
すでに新入生になって数日たってたし、Yくんの小学校の知り合いなのだろう、他のクラスや同じクラスの人達のYくんへの接し方でなんとなく彼の環境がわかってきたころだ。
「ねえ、Yくんさ…」
僕はまず「でんぐりかえし」を野球部に入るそうだから、野球にしたほうがいい、趣味は「あそび」から兄弟が買ってくる漫画を読むらしいから、「どくしょ」にして、性格は「おとなしい」、長所は「あかるい」、短所は「あきっぽい」にしたほうがいいと助言した。
勉強は確かに苦手なのだろうな、短所に書くんだもんね。くくとは九九のことだったのだと、後になって気付いたけれど。九九をよく間違えるということでね、できないってことではなかった。
まあ空白の項目があると先生嫌がるだろうし、「でんぐりかえし」は実際に得意なのだろうけれどからかわれそうだし、「あそび」も本当なのだろうけれど同じ理由でね。
「そうかな…でんぐりがえしはうまいんだよ…」
Yくん照れ笑いしながら、でんぐりがえしを消して野球と書いた。大きく、定規で引いたような直線だけで漢字を書いた。
「やきゅうはね、漢字で書くからね、あってるよね、これ…」。
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