第2話 卒業文集

 やってみると授業って難しい。

 時間が足りなくなる。あれもこれも話そう、板書もしなくちゃってね、やってると時間がなくなります。やっぱり素人だから。あと板書がね。僕は昔から字が汚いのですごく嫌だった。

それに書き順。

 みなさん覚えてますか?教師って生徒からそこ、つっこまれます。

「先生ちがーう」

 申し訳ないので、板書する漢字の書き順は勉強してました。


だけど自分なりの面白みもないと。

生徒を指す時って、これもみなさん覚えていると思いますが、例えば今日が五日だとすると、

「今日は何日だ…、五日か…、男子の五番、応えてみて」

 なんて言われませんでしたか?


“ああ、今日は十七日だから俺、今日、指されるな…”って

めげてたりしませんでしたか。


 僕は授業の時、

「今日、何日だ…、七日か…、男子の十一番、応えて」

 ってやるとみんな驚いてね、面白かった。

「先生、なんで日にち訊いたの」

「ただ、日にち訊いただけだよ、ほれ、十一番、誰だ…」

 マジかよ…って目で僕を見てね。だけどめげない、彼らは。

「今日、何日だ…」

 訊くと、そろってみんな自分の出席番号を言いはじめて。

「先生!先生! 今日は十日、十日だよ」

「へえ~、そうか、じゃあ男子の十番、応えて」

「先生! それはないよ」

 なんてやってました。

 短い期間だったけど、教育実習は面白かったな。その後、実習生同志は今でもたまに会ってます。


昔、「コツ先生」と僕らが呼んでいた社会科の教師が僕の担当で、1年2組の担任でもあった。コツとは痩せていて、まるで骸骨のようだからついたあだ名だったが、今もかわらず痩せていた。中村先生という、いたって普通のお名前で、僕らのいたころは野球部の顧問をされていた。


「中村先生、野球部の顧問、辞められたのですか…」

 放課後、お話しする機会があり、僕は気になったので訊いてみた。

「ああ、なんかな…、もう年だし、若い先生も来たし…」

 今は手芸とか読書とか、そんな部活の顧問をされている。

「そうゆう部活もその顧問も必要なんだよ…、松原にはわかりにくいかもな」

 そうゆうものなのかな。確かに僕はそうゆう部活には興味がなかったね、当時は。


「あの…」

 新井さんと永沢さんの話しを、実際は加藤さんと金子先生のお話しをした。

怖い話は嫌いだけど、中村先生は古株だし野球部の顧問だったしね。

「そうか…ふ~ん…で、お前は見たか…」

「いえ…」

僕は首を振った。

「そうか…ちょっと来いよ」

 先生は椅子から立ち上がり職員室のとなりの部屋に僕を連れていった。そこには過去の卒業生たちのアルバム、文集などの資料がガラス付きの本棚に丁寧にしまってあった。


「昭和○○年卒業、卒業文集」

 僕の卒業した年度の文集を取り出し、さっとめくり、ある生徒の作文を開き僕に見せた。

 確かにね、卒業文集に作文は書いたし、文集ももらったけれど、ほとんど読んでない。なんか恥ずかしいから。

 先生が開いたのは野球部のYくんの卒業作文だった。


「あ…Yくん」

 1年4組、2年5組で一緒だった野球部のYくんのだ。ちいさくて色白で細くて、勉強はすごくすごく苦手だったけれど、にこにこ笑ってたあのYくんの作文だ。

「覚えてるか…、実はお前のことも書いてあるんだぜ」

 え…

 意外だった。小柄な僕よりさらに小さかったYくんは、勉強が苦手で、からかわれやすい性格でもあった。

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