第37話 ユーリ・サンダルフォン③
「では君が後を引き継ぎ給え。戦果を期待している」
現場判断とは言え、上司を殺した行動は特に言及される事無くあっさりと特進が告げられ、私に大隊を率いる権限を与えられる。
サンダース少佐は、部下の命を無駄に大切にする慎重な男であった。
それが足を引っ張り、彼は上の望む様な成果を残せていない。
要は部下には人気があっても、上からは使えない人間と判断されていたのだ。
だからこうもスムーズに話が通った。
勿論私もそれを承知していたからこそ、そうなる様仕向け始末した訳だが――少佐が農民達をこっそり解放しようとしていたのは、「只の農民のふりをしているだけかもしれない」という理由で
イエスの返答が帰って来る事が分かっていたからこそ、少佐とそのシンパは夜陰に紛れて農民達をこっそり逃がそうとしていた。
それが私の仕掛けた罠だとも知らずに。
「はっ!了解しました!」
「期待している」
大隊長の座に就いた私は今の立場を最大限に利用し、戦果を上げ続ける。
結果無茶な作戦行動で多くの部下達が命を落としたが、それは
重要なのは戦果である。
その証拠に私は戦場での働きを買われ、短期で昇進を繰り返していく。
命をかけた戦場で、実力が大きく開花していったのも大きい。
将軍の席を掴む頃には、私は文字通り一騎当千の魔導士へと成長し、焔の魔導士の二つ名でカレンド・ペイレス両国から恐れられる存在になっていた。
此処までくれば、ある程度戦況のコントロールも可能になって来る。
出来るだけ長く、そして多くの犠牲が出る様、泥沼の戦争を続かせる為に立ち回り両国を疲弊させていく。
全ては彼らを苦しめる為。
それこそが私の望みだから。
しかしふと思う。
何故私はこんな事をしているのかと?
確か理由があった筈なのだが、どうにも思い出せなかった。
恐らく、魔力を底上げする為に投与され続けた薬の影響だろう。
研究所から持ち出した分が切れた為、あれは最近投与してはいないが、確か記憶や精神に影響を及ぼす副作用があった筈だ。
「まあ、どうでもいいわね」
下らない事だと一笑に付す。
思い出せないのなら、所詮はその程度と言う事なのだろう。
重要なのは、今私が何を求めているかだ。
それを本能の赴くまま突き詰めていけばいい。
だが私は休戦直後、一つの大きなミスを犯す。
上同士が北部で極秘裏にやり取りを行っていた事を知っていた私は、近日中に火急の知らせとして休戦の伝令が来る事を知っていた。
それが丁度砦攻めのタイミングとかち合った私は、伝令からの報告を後回しにして砦へと攻め込み、最後の一仕事を終える。
――だがこれが不味かった。
報告を聞いていなかったと言う私の釈明は、事前に知っていた事を部下達が暴露した事で大きな問題になる。
普通なら処刑物だったが、あくまでも彼らの証言だけでそれ以外の証拠がなかったため事なきを得るが、それ以外の今までの強引な作戦に問題あると言いがかりをつけられた私は降格させられてしまう。
佐官と将官では出来る事がまるで違って来る。
今の立場では来るべきペイレスとの再戦――両国は休戦を挟みながらも常に戦い続けている――までに、出来る事が限られてしまうだろう。
戦争の下準備を整える為にも、私は上に上がろうと躍起になるがその機会は中々巡って来なかった。
そんなある日。
「ユーリ・サンダルフォン大佐。辞令をお持ちしました」
その辞令には、タラントの森周辺で発生している異変の調査と、安全確保の為の部隊を指揮する様記載されていた。
調査など下らないと思えたが、宰相から降りて来た物では断る事も出来ない。
不承不承ながら私は任務を受けた。
――そこで私はある男と出会う。
黒髪黒目の平凡な見た目の青年だった。
下らない任務だと思っていたが、密入国者という言葉から、私は彼を利用しペイレスとの火種にする事を思いつく。
我ながら名案だと思ったが、ここで予想外の事が起こってしまう。
突然エルフ達の襲撃を受け、しかも魔法を封じていた筈の相手から手痛い反撃を受けてしまったのだ。
挙句の果てに、突如現れたドラゴンに押さえつけられ私は――
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