第38話 ユーリ・サンダルフォン④
「ここは……」
目覚めると、そこは暗闇だった。
起き上がり一応周囲を見回すが、当然だが何も見えない。
床の滑らかな感触から、そこが
「一体何処だ?」
自分の状況が呑み込めない。
私は何故ここにいる?
「やあ、やっとお目覚めかい」
暗闇からの突然の声に身構え、私は呪文を口の中で素早く詠唱する。
唱えるのは勿論、私が生み出した最高の魔法――紅蓮。
詠唱の完了と同時に魔法陣から炎が吐き出され、私を包み込んだ。
――これは私にとって鎧であり
身に纏った炎はありとあらゆる攻撃から私を守り。
手にした炎の鞭は敵を容易く粉砕する。
更にはダメージの回復や、欠損部位の代替え迄してくれる私のフェイバリット。
それが紅蓮だ。
私はこの魔法をもってして幾多の戦場を駆け巡り、将軍の位にまで上り詰めている。
相手が誰であろうと、私に敗北はない……負けない?本当に?
私の頭の中に、男の顔が一瞬浮かび上がる。
さえない青年の顔が……だがそれが何者か何故か思い出せなかった。
誰だ、この男は?
「思い出したのかい?」
「……」
再び暗闇に男の声が響く。
纏った炎の鎧が照らす範囲に人影は見えない。
紅蓮には辺りの熱を察知する機能もあるのだが、其方にも反応は無かった。
「君は死んだんだよ。ユーリ・サンダルフォン」
再び声が響くが、やはり気配を読み取る事は出来そうになかった。
私は警戒しつつも、男に問う。
「私が死んだというなら。此処は地獄だとでも言うつもりかしら?」
良く分からない状況に謎の敵。
分からない事だらけというのは、愉快な物では無かった。
取り敢えず、相手の情報を引き出すとしよう。
まずはそこからだ。
「君は生きているさ。僕が生き返らせたんだ」
生き返らせた?
くだらない与太話で私に恩を売るつもりだろうか?
相手の言葉に私は眉根を顰める。
「あら、それは素敵なお話ね。是非お礼がしたいわ。姿を見せて頂けるかしら?」
適当に相手の調子に合わせて言ってはみたが、まあこれで姿を現してくれれば苦労はしない。
のだが――
「ああ、そうだね。姿を隠したまま話すなんてレディーに失礼だ」
音もなく、暗闇の中からフードを被った男が姿を現した。
本当に突然の事で一瞬戸惑ったが、次の瞬間私の炎の鞭が男の肩を捉え――
「ちっ」
鞭が触れた瞬間、男の姿が掻き消える。
今のは幻覚か。
どうやら一杯食わされた様だ。
「おー、怖い怖い。流石僕が見込んだ女性だけはある」
「あら、ごめんなさい。ちょっとした挨拶のつもりだったんだけど、受け取って貰えなかったみたいね」
「ははは、君は本当に面白い女性だ。ああ、そうだ。君は僕が蘇生させた事を信じていない様だから、証拠を見せてあげるよ」
男がそう言うと、私の目の前に突如姿見が現れた。
そこに映った姿、それは――
「鬼子?」
鬼子とは、極まれに生まれてくるという異形の人間の事を指す。
その姿は角と牙を持ち、瞳は赤く輝いていると聞く。
鏡に映った私の姿はまさにそれだった。
額からは角が生え、口元からは鋭い牙が覗いている。
そして目は煌々と赤く輝いていた。
私は自らの魔法で炎鏡を作り出し、改めて自分の姿を確認する。
だがそこに映る姿も同じ。
どうやら本当に私は鬼子になってしまっている様だ。
いったい何故?
「それは
聞いた事の無い魔法だ。
正直死者の蘇生など信じがたいが、そうでもなければ今の私の変容に説明がつかないのも確かではある。
本当に私は死んだのだろうか?
「さあ、思い出してごらん。君がどうやって死んだかを……」
「私がどうやって死んだか?」
「そう。さあ思い出すんだ。君を殺した男の事を」
男の声が妙に私の心をざわつかせる。
同時に私の頭の中に、ある光景が浮かび上がって来た。
男だ。
私は強大なドラゴンに押しつぶされ動けない。
その私に向けて男が手を――
「―――――っ!?あいつ……」
思い出した。
男の顔。
そしてあの苦しく不快な最後の感覚。
そうだ、あいつだ。
あいつが私を殺したのだ。
「あの密入国者……勇人が」
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