第36話 ユーリ・サンダルフォン②
「ぐぅぅ……ユーリ・サンダルフォン……貴様……」
片手と片足を失った軍服の男が、血溜まりの中で這いつくばっている。
血反吐の中から、彼は恨めし気に此方を睨みつけた。
その様子を見て、私は溜息を吐く。
此方が仕向けた事ではあるが、それに乗ったのは彼本人だ。
その事で私を恨むのはお門違いも良い所だった。
全ては身から出た錆でしかない。
私は視線を辺りに這わせる。
周囲には、男と同じ制服を身に着けた兵士達が転がっていた。
彼らはピクリとも動かず、既に全員こと切れている。
「貴方がいけないのですよ、少佐。敵を逃がす様な真似をするから」
息も絶え絶えに私を睨みつけてくる男。
彼は私の上官、サンダース少佐だ。
私の所属する大隊で、長を務めている男だった。
そんな男があろう事か、捕虜を逃がそうとしていたのだ。
私はそれを見つけ彼を……彼らを処断した。
――敵兵を逃がす行為は謀反に当たる。
お陰で私は大手を振って
上手く行けば、現場特進で私が大隊長の座に収まれるかもしれない。
そう思うと、自然と笑みがこぼれ出る。
「おのれ……魔女め……」
「さようなら。少佐」
鞭を振るい、その首を跳ね飛ばす。
無慈悲に。
いや、苦しみが長引かない様殺してやったのだ。
ある意味慈悲と言っていいだろう。
これは上の席を一つ開けてくれた間抜けに対する、細やかなお礼だ。
「さて……彼等も始末しておきましょう」
私は視線の先にいる、6人の捕虜に向けて死刑宣告を下す。
捕虜は泣き叫び、命乞いを口にする。
勿論それを聞き入れてやるつもりはない。
「ユーリ大尉。何も処刑せずとも……」
部下の一人が、私を止めようとする。
「彼らは只の農民なのですから……」
そう、目の前で跪き命乞いをしているのは全員只の農民だった。
“本来は”の話ではあるが。
戦場となった村の農民。
それが彼らだ。
では何故彼らが捕虜として捕らえられているのか?
その答えは簡単である。
彼らは守ろうとしてしまったのだ。
自分たちの村を。
そのため彼らは武器を取り、此方へと抵抗してしまった。
それが最悪の選択だとも気づかづに。
――今更命乞いなど笑わせてくれる。
そんなに命が惜しかったのなら、少佐の勧告に従いとっとと村から逃げれば良かったのだ。
後悔先に断たずとは正にこの事だった。
私は部下の言葉など無視して鞭を振るい、6人全員の首を刎ねた。
どうせ情報も持っていない“元農民”だ。
こいつらにこれ以上の労力をかけるなど、無駄でしかない。
「どうせ大した情報も期待できない捕虜の為に、物資や人員を割くのは無駄でしょ?それとも、拷問で楽しむ為に生かしておくべきだとでも?」
「……」
返事はない。
どうやら納得した様だ。
捕虜の遺体の埋葬と、謀反者達の片付けを命じ。
彼らの裏切りとその処分を自ら伝える為に、私は上機嫌で本部へと向かう。
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