第35話 ユーリ・サンダルフォン

私の名はユーリ・サンダルフォン。

ペイレス帝国の北部にある寒村で生まれ、村が5歳の時に戦争で焼き払われて両親を失っている。

それ以来、私と兄は教会の運営する施設に引き取られ生活していた。


施設での生活は貧しくて窮屈な部分も多い。

だがシスター達は優しかったし、同じ施設で生活する友達も皆いい子達ばかりだった。

何より私には兄がいてくれる。

だから施設での生活に十分な幸福を感じる事が出来た。


だけど、そんな生活も唐突に終わりを告げる。


ある日突然大人達が大勢やって来て、私達孤児に色々な検査を施す。

後で知った事だが、それは政府の魔法研究用のモルモットを見繕うための物だった。

身寄りのない子供は絶好の研究材料だったのだろう。


とは言え、魔法の素養が無ければ話にならない。


そして検査の結果、私から著しい魔法の才が発見されてしまう。

そのせいで私は無理やり皆と引き離され、軍の研究施設へと連れていかれる。


兄や孤児院の皆と離れ離れになるのは辛かった。

施設での生活は凄く苦しい。

毎日毎日変な薬品を飲まされ、魔力を極限まで高める厳しい訓練が私には課せられた。


それは本当に辛い日々だった。

その苦しみから、私は毎日を泣いて過ごす。

そんな辛い日々の中、何度も死にたいと考えた。


だが私は死ななかった。


何故なら、私が生きて努力している間は施設にお金が入るからだ。

私の努力で皆が幸せになれる。

それだけが辛い日々の中、私の心の支えとなっていた。


そう、あの日までは……


「書簡?」


研究所の職員から、一枚の書簡が私に届けられる。

宛名を見ると、それは施設でお世話になった神父様からの物だった。

私は急いでその封を開け、そして絶望する。


何故ならそこには――パルグ村が壊滅し、施設の孤児達全員が死亡した旨が記されていたからだ。

その後に謝罪の文字が長々と並んでいたが、衝撃を受けた私の頭には入って来なかった。


「うそ……うそよ……」


今でもはっきりと覚えている。

あの恐怖。

とても冷たい、水の底に沈んだかの様な絶望感。


体から力が抜け、目の前が真っ暗になる。

息が苦しくて、心臓が張り裂けそうだった。


そして気づいた時、私は医務室のベッドに寝かされていた。

ひょっとしたら悪い夢だったのかもという甘い希望を一瞬持つが、それは直ぐに砕かれる。

何故なら、私の手にはしっかりと神父様からの書簡が握り絞められていたからだ。


私は泣いた。

泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。

そして誓う。


“復讐を”


誰に?

勿論決まっている。

皆を殺したカレンドの連中全て。


そして――村の皆を見捨てたペイレス帝国にだ。


神父様からの書簡には、全てが記されてあった。

ペイレス軍が籠城したために村が戦場になった事。

そして劣勢になった途端、軍が村民を見捨てて逃亡した事が。


私は許せなかった。


私の友達や兄を殺したカレンドの連中。

切っ掛けを作っておいて、皆を斬り捨てたペイレスの人間。

その両方が、私は憎くて憎くて仕方が無い。


だから心に誓ったのだ。

両方地獄に叩き落としてやると。


それからの生活は、楽しくて楽しくて仕方ない物となる。

何せ研究所の人間は、せっせと私の魔力を引き上げてくれるのだから。

いずれその力が自分達に向くとも知らずに。

その様が愉快で愉快で仕方なかった。


そして私は16の時、研究施設の人間を皆殺しにし、そのデータをもってカレンドへと亡命した。


何故カレンドへ亡命したかって?

その方が出世出来ると思ったからよ。


帝国は血筋至上主義で、上に昇るのは難しい。

だが王国は実力次第で将軍の席にだって手が届く。

だから私は王国へと亡命したのだ。

出世して、戦場を更なる地獄に変える為に。


そう、滅んでしまえばいいのだ。

帝国も、王国も。

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