エピローグ《手紙》

 お元気ですか? ツユくん。


 この手紙は今日出会った、ツユくんに向けて書いています。


 手術まで、あと三時間くらいかな。貴重な時間を使って書いているんだから、感謝してよね?


 私は、高校入学した次の日に、手術で私の記憶はなくなることがわかって、どん底にいた。辛かったなぁ。


 でもね、君の幼馴染が私のところに来て言ったの。


「告白されちゃった! どうしよー」


 ってね。

 私と君の幼馴染はずっと友達だったんだよ。君とはクラスが一緒になることはなかったし、

「カスミが取られちゃうー」

 って、私が避けてたっていうところもあって、君は知らないと思うけどね。


 この手紙を受け取って気づいているのかな? 

 でも、ツユくんは気にしないでこの手紙読んでるかも。想像できる。


 そうそう、君に言っておきたい事があるんだ。


「ありがと、ツユくん」


 そう君に、感謝を伝えたい。私は人生のどん底、地獄を見ているようだったんだ。


 でも、幼馴染が話す、君の話はとても新鮮でね。よく笑わせてもらったよ。

 だから、君に会って感謝を伝えたかったんだけど、言葉が出なくて。ごめんね。手紙で伝えることになっちゃって。


 それと、君は思ったよりも、いい人だったよ。カスミを幸せにしてあげて。私は幸せにできないから。君が私に光を差し込んでくれたようにカスミには太陽よりも強く暖かい光を与えてあげてね。


 君に話したい事がいっぱいあったのに、なんでだろ、もう言葉が出てこないや。あともう少ししか時間がないっていうのに困っちゃうな。


 そうそう、一つだけ、君が気になっていそうなことを書きます。


 雨の日に公園で何をしていたんだー! 


 ってことについてです。

 これ、一番気になるでしょ?

 私は病室で三ヶ月弱。時々降る雨や雷の音がいつの日にかワクワクに変わっていて、外で騒ぎたいなって、そう思うようになったの。


 医者と両親に話して公園に行ったあの日、偶然君が私の目の前に現れたの。


 いつも騒いでたわけじゃないから、私はおかしくないよ。制服を着ていったのは、そうだな。最後の日くらい高校生でいたいなって思ったからかな。ちょっと可愛く見えるし。透けさせたかったわけじゃないからね。


 そんなこんな書いているうちに時間がなくなって来ました。もうそろそろ、お呼びがかかりそうなので締めに入りますね。


 私はとても幸せです。ツユくんとお話しできて、幼馴染を預けられそうな事がわかって。何も残す事がないです。


 いや、ありました。直接感謝を言うこと。やっぱり直接言いたかったな。

 でも、これはこれで、いい思い出になった気もするので良しとしましょう。


 もしかしたら、また会えるかもしれないのでその時はよろしくね。


 ほんとに最後の最後。一言、君に送りたい。



 雨上がりの静けさを知る者は雨の日の楽しさを知っている。

 雨上がりの静けさを知らない者は雨の日の騒がしさしか知らない。



 じゃあね。ツユくん。

 君は他の人とは違う。


 私の特別だったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨上がりの静かさ 新月N.M @sinngetuNM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ