第四章 手段を選んでくれないのは腹黒美人

第55話 え、呑気にしていられる時間もう終わり?

 ギャル達が通う高校の文化祭が終わり、振替休日という事で黒髪少女と一緒に遊びに来た。まぁ菜摘なつみが来るのは通常通りなのだが、蓮琉はるが我が家で楽しそうにしている光景は、ずいぶん久方振りに目にする。三週間ぶりくらいかな。

 何はともあれ、無事に交友関係が再構築され、俺も菜摘も息苦しさから解放された。嘘をつき続ける必要も無くなり、今度こそ堂々と恋人や友人として付き合っていけるのだ。相手はどちらも女子高生なんだけどな。


 しみじみと幸せを噛み締めていると、蓮琉と悠太ゆうたから離れた菜摘は、少し悩むような様子でこちらにやって来る。

 一体どうしたのだろうか。

 

「ねぇマサくん。ちょっと気になったんだけど、明希乃あきのさんとは何が原因で別れたの?」

「え、それ聞く? いきなり聞いちゃう?」

「うん、言えるなら聞きたい」

 

 元カノとの話を現在の彼女にするのは、個人的に趣味ではない。それによって、今の恋人関係をどうこうしたいとは考えないし、相手が違うのだから参考にもならないだろう。

 しかし菜摘と明希乃は、なんだかんだ仲良さげになってるし、明希乃の口から言わせるよりはマシかもしれない。

 かなり気は重いが、彼女の問いかけに正直に答える事にした。

 

「あいつと付き合ってた当時は、他の事で手一杯だったんだ。大学で学びながら、自分でも起業について猛勉強していたからな」

「それですれ違いになっちゃったの?」

「最初はテスト対策も手伝ってくれたんだけど、だんだんそれは恋人じゃなくてもいい気がしてさ。友人関係の方が気が楽だったんだ」

「別れてからはずっと今みたいな関係?」

「すぐにこうはならなかったよ。卒業の少し前にまた絡むようになって、なんでも遠慮無く言い合える友達になれた感じ」

 

 軽く聞き流してもらえるくらいが理想だったんだけど、真剣な面持ちで聞いていたギャルは、なぜだか気まずそうにし始める。やっぱり昔の恋愛など語るべきではないよな。

 そう考えていたのも束の間、菜摘の口からは耳を疑うセリフが飛び出してきた。

 

「あたし、そうやって割り切れてるのは、マサくんだけな気がする」

「どういう意味だ?

 明希乃は違うって言いたいのか?」

「うん。明希乃さんはマサくんのこと、今もまだ好きだと思う。この前のことも、全部マサくんの為にやってた感じがしたもん」

「俺の為に……?」

 

 お互い厄介事ばかりに巻き込み合うから、俺はあいつを悪友としてしか見ていない。それは向こうも同じだと思っていた。菜摘からそんな風に見えている原因はなんだろう。

 明希乃から嫌われていないのは分かってるけど、友人としてでも好感度は低そうな気がしてたのに。

 

「あたしはさ、それも仕方ないかなって思ってるよ。だってマサくんってなんか、天然の女たらしっぽいもん」

「はい? それは聞き捨てならないぞ。

 俺がいつそんな雰囲気を漂わせた?」

「自覚が無いから天然なんじゃん。人に期待させるのが、すごく得意なんだよマサくんは」

「くっ。それは心当たりがあるから、なんも言い返せない……」

 

 意図せず他人の人生に踏み込み過ぎてた側面があり、それは必ずしも良い方向に向かうとは限らない。むしろ相手からしたら菜摘が言うように、期待という形で残ってしまうケースも多いだろう。

 明希乃には何をしたかな。別れた後なら、住む場所の提供や独立の手助け、他には資産運用について少し教えたくらいか。うん、ほとんど利害関係でやってるよな。


 勝手に自己完結していたところで、家のインターホンが鳴る。また菜摘の友達かな?

 

「あ、噂をすればだね」

「えぇ? まさか明希乃が来たの!?」

「だってあたしが呼んだんだもん。仕事後に一緒に夕飯どうですかー? ってね」

「いつの間に連絡先交換してたんだよ」

「結構前だよ? 文化祭行く前だって、朝ごはん食べに来てもらったじゃん」

「そう言えばそうだったわ……」

 

 平然としていられるこの子の胸の内が読めない。自分の彼氏の元カノであり、今も好きかもと疑ってる相手と、なんで同じ空間に居ようと思えるんだ? 俺は菜摘しか見てないけど、彼女も信頼してくれてるって事か?

 

「こんばんはー。

 あら、五影いつかげさんと悠太くんもお揃いね」

陸峰りくみねさんこんばんは。先日は見に来て下さってありがとうございました」

「五影さん、とってもいい感じだったよー。

 その後お父さんとの関係はどうなの?」

「お陰様で、父の口うるささが消えました。

 仕事に使う時間も増え、順調みたいです」

「それは良かった。仕事中もうわ言みたいにあなたの話をしてたし、不安が解消されてようやく集中してるんでしょうねー」

 

 家主を無視して少女と話す悪友に、変わった様子は見られない。

 そしてこちらにも変わらないギャルが居て、自然に話し掛けに行く。

 

「明希乃さん、すぐにご飯作りますので、それまでゆっくりしてて下さい」

「ありがとう菜摘ちゃん。こんな気が利く彼女がいて、本当に玖我くがくんが羨ましいわ」

「お前に菜摘は譲らんぞ」

「あら、居たの玖我くん?」

「そりゃ居るだろ! ここ俺の家だから!」

「冗談に決まってるでしょ。

 いちいち大きい声出さないでよ」

 

 挑発しておいてよく言うわ。

 上着を着ていたのでハンガーを手渡し、自分の家のようにくつろぐ明希乃だが、俺だけが意識してしまう。

 

「玖我くん、もしかしてあの一件、君の耳にも入ってる?」

「へ!? な、なんの事だよ?

 俺は何も聞いてないし知らないからな?」

「なに慌ててんのよ。やっぱり知ってるんじゃん。七種さえぐさ美芙優みふゆが帰って来てること」

「はぁああ!? それはガチで初耳だわ!」

「じゃあなんでキョドってたわけ?」

「いや待て。それどころじゃないだろうが」

 

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