第45話 ふたりの相性は測定不能?

 慌ただしい昼食時間が過ぎ去り、腹を膨らませた俺は、ソファーの上でだらけようとしていた。美味い料理を食った後に、こうして体の力を抜くのは、最上級の至福である。

 だが今日のギャルちゃんは、いわゆるJKらしいエネルギーに溢れていた。さすがに若さには敵わん。

 

「ねぇマサくん。遊ぼうって言ったじゃん」

「ちょっと食休みー」

「そのまま寝そうなんですけど?」

「じゃあついでに昼寝ー」

「あっそ!! もう勝手にしなよ!」

「悪い悪い。もう休憩終わったから」

 

 拗ねた菜摘なつみも可愛げがあるけど、急いで昼食まで作ってくれたのに、ここで怒らせるのは当然気が引ける。床に大の字になって寝息を立てる二歳児が、とても羨ましく思えるが。

 

「ゆうちゃんは子どもだからいいの!」

「なんも言ってないぞ。見てただけだ」

「いいなぁって思ってたんでしょ?」

「ずいぶん察しが良くなってきたな」

「だってマサくん、顔に出やすいし!」

 

 これまで気にもしていなかったが、近頃その顔に出るという一面が、やけに身近に感じてきた。菜摘や悠太ゆうたを見ていればそう思うこともあるけど、自分自身に関しても、決して他人事ではないらしい。表情豊かな俺っていうのは、ピンと来ないのだが。


 そんなやり取りをしている内に、蓮琉はるは本題の準備に取り掛かっていた。何やらスケッチブックまで取り出し、ギャル以上に乗り気な様子に見える。

 

「私がお題を出すので、その答えをお二人が紙に書いて、同時に見せ合うってやり方です」

「いいねー! あたしらについての質問?」

「そうだよ! 二人が知ってそうな内容ね」

「マサくん、ちゃんと考えてよー?」

「それはいいけど、本当に撮影するの?」

「一応、雰囲気だけでも楽しみたくて。

 このスマホでムービー撮りますね!」

 

 ざっくりとした説明だが、イメージしていたものとほぼ同じだろう。

 俺と菜摘は小さなテーブルの前に座らされ、正面にカメラを固定した蓮琉から、紙とペンを手渡される。

 

「取り敢えずお試しってことで、新鮮なリアクションをお願いしますねー」

「はいはーい!」

「やろうとしてやったら新鮮じゃないけど」

 

 隣のギャルと違い、俺はこの状況をまるで楽しめそうもないんだよな。


 ニコッと微笑んだ少女から、まず最初のお題を提示された。

 

「では第一問。

 彼女が思う、彼の一番好きなところは?」

 

 定番っちゃ定番だが、こうして予想を立てるのも中々難しいな。

 考え始めた矢先に、菜摘が手を挙げて即答する。

 

「ごめん。それ、答えらんない」

「なんで!? 俺の好きなとこ無いの!?」

「いや、いっぱいあり過ぎて、この紙に書ききんないし。他のがいいー」

 

 照れもせず言われると、こっちが照れるわ。

 

「んー、じゃあ逆にします。

 彼が思う、彼女の一番好きなところで!」

 

 彼女の好きなところか。この場合、菜摘が思い浮かべそうな答えを書くべきだけど、それすら想像出来ない。改めて考え出すとキリが無いし、直感で思った部分を書くかな。

 

「二人とも書けましたかー?」


「「はーい」」


「では一斉にどうぞ!」


「料理が上手!」

「義理堅いところ」

 

 料理に関しては来るかと思ったけど、前にその利点を褒められても嬉しくなさそうだったから、あえて内面から選んだのに。まさかどストレートな回答が飛んでくるとは。

 

「料理は君の強みだけど、一番の魅力じゃないだろうよ。もっと性格的なとこからさぁ……」

「いや義理堅いってなんだし! 言われても褒められてる気がしないんだけど!?」

「君の持ち味だろうよ。受けた恩を忘れないし、思いやりも強い。いないぞこんな良い子?」

「そ、そーゆーもんなの?

 自分じゃよく分かんないもん……」

 

 顔を赤らめてモジモジする菜摘は、やはり自身に向けられる褒め言葉に弱いらしい。正直で可愛らしいが、これは俺の勝ちだな。

 

「これは勝ち負けではないので、勝ち誇らないで下さいねー」

「あ、そっか。趣旨を忘れてたわ」

「次いきますよー? 第二問。

 彼に直して欲しいところは?」

 

 また俺に関してか。と言うか純粋そうな少女よ。この質問、結果によっては割と溝が深まるぞ。そもそも俺が傷付きそうなんだけど。

 

「書けたみたいですねー。ではオープン!」


「引きこもり」

「なんにもない!」


「「………」」

 

 全員で黙り込むってなんだよもう。しかもギャルは回答拒否してるレベルじゃないか。

 

「菜摘ちゃんは、不満が無いってこと?」

「うん。マサくんはこのままでいいもん」

「結構指摘する場面も多くね?

 それでも直さなくていいって事か?」

「だって言えば変えてくれるし、あたしの嫌がることは絶対しないじゃん」

 

 どんだけ器がでかいんだよこの子。いちいち言わせるなって方が当然なくらいなのに、それを手間と思わないとか、理想的過ぎるぞ。

 最早蓮琉に至っては、苦笑を浮かべている。

 

「な、なるほど……。答えは一致しませんが、本当に仲良しなんですねー」

 

 なぜ出題者が一番悩まされてるんだ。

 

「これで最後にしましょう。第三問!

 二人でデートするならどこがいい?」


「マサくんち!」

「俺の家!」


「はい、即答ありがとうございました。二人だけの世界が強過ぎるので、この動画を投稿するのは辞めにしましょう!」

「えー、ハルちゃんまでそんなこと言う?」

「だってこの惚気話のろけばなし、全世界に配信するの?」

「ちょ、ちょっとだけ恥ずいかも……」

 

 相も変わらず平和過ぎるぐらい平和な、九月の終わりの一日だったとさ。

 

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