第22話 あの気まぐれのツケが来てます?
「おーっすマサくん!」
「おう
「うん、なんかしっくりきた!」
菜摘は二日に一遍は必ず夕食を作りに来てくれて、もう百万がバイト代だと考えても、それ以上に働いてくれている気がする。
彼女自身、週三回はバイトに行く。その足で保育園の
「学校始まって疲れたりしてないか?」
「全然平気だよー! 楽しいし!」
「あんまり無理しないでくれよ?
かなりのハードスケジュールなんだから」
「だいじょぶだってー! あたしが来たいから来てるって言ったじゃん!」
それでも今のように嫌な顔ひとつせず、むしろ幸せそうな笑顔を見せてくれるのは、俺としても嬉しい限りである。
だが未だに付き合っているわけではない。やっぱり相手が高校生ともなると、お互いに好意を抱いていたところで、踏み切るのに時間がかかる。卒業までずっとこんな関係が続くのなら、いっそ腹を括るべきかとは思うが。これ続くのかなぁ。
「お、今日は食材めっちゃあるねー!」
「昨日仕込んでおいたからな」
「そかそか。これならなんでも作れるぞー」
気合を入れてエプロンを着るギャルの姿も見慣れたが、出逢った当初は中々に異様な光景に映っていた。普段下ろしている髪もしっかり結って、
「ねーねー、あたしらそろそろ三ヶ月だよ」
「ん? あぁ、君を買った日からか」
「うん、助けてもらった日から!
まだマサくんは後ろめたさあんの?」
「それはもう無いかな。むしろ美味い飯が食えるようになって得した気分だよ」
「なにそれー!
あたしは料理にしか価値ないの?」
「いや、菜摘が
「……そっか」
料理中の彼女との会話は多岐にわたるが、その多くはお互いの距離を確かめるような内容になる。たぶん告られるの待ってるんだろうなぁ。
分かってはいるけど、やはりハッキリ言うのは気が引けてしまう。早く卒業してくれないかなぁとか思ってしまう俺は、相当バカなのだろう。このヘタレ野郎め。
「あー、今日も飯が美味いわぁ」
「しみじみ言うねー。もういっそのこと、ゆうちゃんとママ連れて来て一緒に住む?」
「ア、アホ言え! んなことできるか!」
「じょーだんだよ。
今のままでも充分幸せだし!」
それもいいかも、なんて思ってしまった。
そんな日常のやり取りの真っ最中、けたたましい着信音が鳴り響き、俺らの目線はポケットへと移された。誰だよ邪魔する奴は。
「珍しいね、電話の音。
「いや、あいつなら直接来るだろ」
「あー、ぽいね」
取り出したスマホの画面を見て凍り付いてしまう。菜摘が負い目に感じないよう、先日の一件は黙っておいたのだ。相手は黒髪美少女だし。
「すまん、少し外す」
「えー、なんで? 聞かれたら困るの?」
「ごめん、ちょっと困るかも」
「……それなら仕方ないね」
何か察したみたいに穏やかな顔をされると、やっぱギャルより成熟した女性として思えてしまう。信頼されてるようで嬉しくなるしな。
そそくさと書斎に移動した俺は、鳴り止まないスマホにモヤモヤしながらも電話に出た。
「もしもし? どうしたの五影さん?」
「あ、
今お電話大丈夫ですか?」
「手短に済ませてもらえれば問題無いよ」
「では率直に言います。
今夜匿ってもらえませんか?」
なに言ってんのか理解出来んこの子。匿うって、何者に追われてるんだよ。というか、なんで俺がそんな面倒なこと引き受けなきゃならんのだ。
断ろうと口を開いたその時、電話越しに荒い息遣いが聞こえてくる。
本当に追われてんのかよ……
「走りながら電話してんの?」
「家を飛び出したら、使用人に見付かりまして。玖我さんのビルの近くに居ます」
「は!? 近くまで来てんの!?
捕まったらどうにかなっちゃうやつ?」
「……たぶん縁談を早められて、最悪そのまま結婚を強要されるかと」
「わかった。エントランスで隠れててくれ」
この少女を助ける義理なんてない。だが彼女はきっと、俺が菜摘を救って仲睦まじくしている姿を見て、手を差し伸べてくれる存在に気付いてしまったんだ。あの気まぐれが元凶で期待を抱かせたのなら、このまま見捨てるのはさすがに後味が悪過ぎる。
すぐにダイニングへと戻り、スマホをいじって待ってるギャルに声を掛けた。
「菜摘、ここに女の子連れて来ていいか?」
「えー、それはヤダ」
「だよな。だがちょっと事情があって、助けが必要らしいんだ」
「よく分かんないけど、今からその人を迎えに行くの?」
「もう下で待ってるはず。そこまで行くよ」
「じゃーあたしも行く」
二人で玄関を出てエレベーターに乗ってる間に、菜摘にも軽く経緯を説明した。口をへの字にして嫌そうではあったが、諦めたように見逃してくれると言う。
もし彼女に拒絶されれば、無理にでも五影さんを追い返すつもりだったのだが、それはさすがに忍びないか。
「あ、あの子?」
「間違いない。五影蓮琉だ」
「隠れてんのかなあれ?
マジで追われてるっぽいね」
「くそ! 面倒事の予感しかしねぇ!」
ガラス扉の向こう側に、大きな荷物の影で座り込む少女の姿があった。完全に家出スタイルで、ここまで来て踏み出す足が重くなる。俺はあの子をどうしてやろうと言うのか……
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