第19話希望の明日へ


 魔王討伐。その一報は王国中に一気に広まった。そして魔王を討ち倒した俺たちは四人の英雄と呼ばれる事になり、王城に招かれ、国王直々の称賛の言葉を受ける事になった。王都ブラーサーに戻り、聖教会に一回、戻る間もなく、俺たちは王城に登城する。謁見の間で御機嫌の国王に俺たちは迎えられた。


「聖女たちよ、この度の魔王討伐の働き、真に見事である。国民を代表してこの私が礼を言おう」


 王が直々に礼を言うなんてとんでもない事だ。俺たちは恐縮しつつ、それを受けた。


「いえ。聖女たるものこの国を脅かすものを打ち倒すのも当然の事ですから……」


 俺が謙遜してそう言う。王はまだ御機嫌のようであった。


「ふ、謙遜を。他の三人もよくやってくれた。貴殿らは英雄だ」

「いえ……」

「ありがたきお言葉」

「私は故郷の仇を討っただけです」


 王の言葉にリスティ、エリア、クーも謙遜気味に返す。いかに大きな事をやったと言っても国王に直々に褒められたり、礼を言われたりすれば謙遜もする。ここで堂々と威張り散らす度胸は俺にはなかった。


「貴殿らには望むがままの褒美を出す。とりあえずそれまで王都に留まっていてくれるか?」


 国王の言葉に俺たちは頷く。リスティとクーはともかく聖教会の一員である俺やエリアが褒美を受け取るのは色々と問題がある気もするのだが、王がこう言っているのに否と言うのもはばかられた。謁見の間から出て王城を出る。これからの事で皆で話し合おうと思っていた。


「リスティとクーはどうなさるのですか?」


 それが俺にとって気になっていた。俺とエリアは聖教会に戻るだけだが、リスティとクー。特に冒険者ギルドに登録しているリスティはともかく故郷を滅ぼされ旅をしていたクーはどうするのか。


「私は冒険者ギルドで依頼を受ける日々に戻るわ。クーは?」

「私は……考えてもいませんでしたね。魔王を討ち倒した後の事は」


 やはりクーは何も行く宛てがないようであった。そこにエリアが声をかける。


「良ければクーも聖教会の聖堂騎士の一員になりませんか? 実力は折り紙付きです。誰も否とは言わないでしょう」

「私が聖教会の騎士に、ですか……?」

「ああ」


 エリアの提案にそれはいい、と俺も思った。クーの実力なら聖教会の騎士も務まる事だろう。


「まだ、分かりません。少し考えさせてください」

「分かりました。良い返事を期待しています」


 しばらく考えるというクーに無理強いせずにエリアは引き下がる。これはクーの問題なのだから強要は出来ないだろう。俺もそう思う。


「まぁ、とりあえず私とエリアは教会に帰りましょうか。神官の方々には心配をかけているでしょうし」

「そうですね、聖女様」


 そこで一旦、解散となり、俺とエリアは聖教会に戻る。案の定、神官たちが押し寄せて来た。


「おお、聖女様、御無事で何より」

「心配したのですぞ」

「見事、魔王を討ち倒したようですな。素晴らしい」


 神官たちの歓迎を受けつつ、俺は苦笑いする。やはり聖教会にいると旅をしている時と比べて窮屈な日々が待っていそうだ。そう思いつつもとりあえず聖女をやってやるか、とは思う。

 聖教会の聖女という事で魔王との戦いで役に立ってくれた鎧は脱がされ聖なる衣を身に纏わされる。胸が気になって仕方がない所だが、それを口に出す訳にもいかない。聖女に戻った以上、鎧は不要という事なのだろう。そうして、久しぶりの聖教会での時間を過ごしていると翌日、クーが聖教会にやって来た。


「エリアさん、私も聖堂騎士にしてください。聖女様のために頑張って働きます」

「ええ。待ってましたよ、クー。貴方なら文句なしです」


 クーをエリアはやさしい笑顔で迎える。聖教会の面々も魔王討伐の英雄の一人に対し、聖堂騎士になる事に異を唱える者はいないようであった。クーは聖堂教会の騎士となり、俺の警護を担当する事になる。こうなればリスティがいないのが寂しいが彼女は冒険者ギルドの冒険者としての生活に戻ったのであろう。それを無理強いして、聖教会に来るように言う事など出来なかった。


「クー、貴方が聖堂騎士になってくれて私も嬉しいわ」

「ありがとうございます、聖女様。至らぬ身ですが、聖女様のために働こうと思います」

「そんな謙遜を。クーなら文句なしだわ」


 魔王討伐にも活躍したクーの実力を考えれば文句などあるはずがない。新たに聖堂騎士を加えて、俺は聖女としての生活を送る。魔王を討ち倒した後の世は平和なものだった。魔王が消えた事で魔物たちも大人しくなり、旅人や商人も以前と比べれば幾分か安全に町と町を行き来出来るようになったようだ。これも全ては魔王を討ち倒した事のおかげである。

 民衆は魔王を討ち倒した聖女を称える声を寄せたが、俺一人で魔王を倒した訳ではない。他の三人の英雄たちも均等に称えられるべきだと思ったがパーティーの代表であった、聖女である俺への称賛の声の方が大きいようであった。

 それを少し不満に思うものの、聖女がパーティーに参加していた事は事実なのでそれを取り上げられても仕方がないかとも思っていた。


「エリアやクーも頑張ったんですけどね……」


 俺は護衛に就いてくれているエリアとクーにそう声をかける。エリアとクーは大して気にしていない様子で声を返す。


「いえ、私たちのパーティーの代表は聖女様ですから」

「別に私たちは称賛を浴びるために魔王と戦った訳ではありませんので」

「それもそうなのですけど……」


 聖女だけが称えられる状況はどうなのかと思う。エリアも、クーも、リスティも、全員の力あっての勝利であった。いずれにせよ、魔王亡き後の世の中は平穏無事に過ぎ去って行く。俺も元の世界に戻れないかと思ったのだが、あいにく、この聖女の体に魂は入ったまま出てくれそうにないようであった。仕方がなく聖女の義務をこなすのだが、これがまたまどろっこしくて面倒臭くて仕方がない。それでも聖女なのだからこなさなければならない。

 魔王を倒した事で人類は新たな夜明けを迎えつつある。それを活かすも腐らせるも人類次第と言った所だが、俺は人類がそこまで愚かではないと信じたい所であった。魔王を討ち倒した後に残るのは希望だ。希望の日々が人類を待っている。それを迎えて、新たな栄光の日々を人類は歩き出そうとしているのだ。そこには確かな希望があると信じたかった。

 そう思っているとリスティが聖教会に訪問してきた。無礼にも神官たちはリスティを追い返そうとしたようだが、聖女である俺が許可したのでリスティは久しぶりに私たちと対面する。


「いやぁ、聖女様。そうやって聖教会にいる方が魔王退治の旅をしているより様になっているわね」

「そんな事は……私としては魔王退治の旅をしている方が気楽でよかったですわ」

「聖女様、そのような事を……」


 俺の言葉をエリアがたしなめる。とはいえ、事実だ。この聖教会で退屈な時間を過ごしているよりは魔王退治の旅で刺激的な時間を過ごしている方がよかった。


「まぁ、魔王も討ち果たした事ですし、人々にとって新しい希望の日々が訪れる事でしょう」

「それは全く持ってその通りね、聖女様。魔王討伐で希望を抱いた人の数は少なくはないわ」


 それなら苦労して魔王を討伐したのも報われると言うものだ。魔王を討ち果たし、新たな希望の日々を迎える。人類。その明日は必ず明るいものであろう。


「本当に新しい日々が始まるのですね……」


 そう言い、俺は窓から天高くにある太陽を見る。太陽が照らす人類の希望の日々。そこには確かな未来が存在しているはずであった。

 俺はそれに満足し、自分の役目がこの世界で終わった事を悟るのであった。

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TS異世界転生! 転生したら聖女様でした! 普通の聖女がやらない武芸に神聖な力が加わって天下無敵! 前代未聞の武闘派最強聖女爆誕! 一(はじめ) @kazumihajime

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