第18話魔王との決戦


 魔王の襲撃。魔王と言うとあの銀髪赤眼の幼い少女の外見をしている存在だ。だが、外見で判断するなかれ強力無比な魔法の数々を行使し、剣を手に取った接近戦の技量も高かった。


「魔王が、ついに来るのか……!」


 あれだけの力を持った存在と戦う。こちらにも神の加護はあるし、俺以外の三人も大型のドラゴンを倒せる程に力量を向上させている。以前のように全く敵わないという事はないはずだ。その思いで俺たちは魔王の軍勢を迎え撃つ。

 ベイルの町防衛隊の兵士たちが外に出て襲来した魔物の集団を迎撃した。ここまでは以前と同じだ。あの時、魔物の軍団を率いていたのは獣人であったが、今回は魔王。格が違うと見ていいだろう。それを討ち取らなければならない。俺たちは魔物の群れと戦いながら敵の総大将・魔王が現れるのを待った。


「今更! こんな魔物程度に!」


 リスティがそう言い、片刃剣で魔物たちを次々に討ち取っていく。以前の時より遥かに力量は向上している証であった。エリアとクーも槍と剣で魔物たちを倒していく。俺も神の加護を受けて黄金に輝く剣を振るい、魔物たちを倒していく。防衛隊の兵士たちも奮戦し、ベイルの町を守ろうとする。そんな中、その少女は現れた。


「ふふふ、人間たちがあがいているわね」


 銀色の髪の赤い瞳。一見すれば幼い人間の少女に見える存在。だが、それが魔王である事を俺たちはよく知っている。魔王は手をかざすと爆発が巻き起こり、十数人の兵士たちを一気に吹き飛ばした。とんでもない魔法の力だ。やはり魔王。その力は圧倒的だ。


「皆さん! 魔王を倒しますよ!」


 俺は三人に声をかけ、四人で魔王を囲い込む。魔王は動揺せずに笑みを浮かべていた。


「あら、聖女。また会ったわね」

「ええ、また会いましたね。ですが、ここで最後です。貴方を私たちは倒します」

「あはは! 口だけならどうとでも言えるわね!」


 そう言うと魔王は黒い球体を無数に出現させ、こちらに放って来る。以前も使った魔法だ。この爆発は生半端な鎧など破壊するだけの威力がある。しかし、それらを喰らいつつも俺たちの鎧は健在だった。対魔法防御を強化した特注品の鎧だ。そう易々と破壊される事はない。これにわずかに魔王は眉をひそめたが、すぐに普通の表情に戻り、剣を召喚し、こちらに向ける。


「魔法が効かないなら、これで切り刻んであげるわ」


 そう言い、魔王がこちらに接近して来る。最初の狙いは、俺か! 俺は黄金の輝きを纏った剣で魔王の剣を打ち合う。凄まじい膂力を感じる。幼い少女のものではない。俺は押されつつもなんとか剣を打ち合う。そして、俺たちは魔王相手に一騎討ちなどという殊勝な事をするつもりはない。


「人間の力を思い知らせてあげるわ!」


 リスティが回り込み片刃剣で斬り付ける。それを魔王は剣で受ける。その隙にエリアが槍で刺突を繰り出す。これを魔王は回避する。そこにクーが剣で斬りかかり、魔王は剣を振るって弾き返した。


「魔王! 故郷の仇を討つ!」


 仇討ちにクーは燃えているようだった。リスティも、エリアも、クーもやる気は充分。俺も加わり魔王を包囲し、それぞれの武器で攻撃を加える。流石は魔王。四対一で戦っているのにまるで不利を感じさせない。だが、こちらの力量もベイルロディア山脈でのドラゴン相手の鍛錬で上がっている。四人で連携攻撃を繰り出し、徐々に魔王相手に優位に戦いを進めていく。


「鬱陶しいわよ!」


 苛立ち気に魔王が言い、手をかざす。そこから爆発が巻き起こり、リスティとクーが吹っ飛ばされた。


「リスティ! クー!」


 思わず俺は叫ぶが、二人共立ち上がり、問題ない事を教えてくれる。鎧の対魔法防御能力は優秀のようであった。その間、俺が黄金の剣で斬りかかり、エリアが槍で突きを繰り出すも魔王はこれを自身の剣で捌く。そこにリスティとクーが再度、加わっても魔王を押し切る事は出来ない。魔王の剣技が卓越しているというのはあるが、時折繰り出して来る強烈な魔法攻撃にも警戒しないといけない。それもあって、俺たちは攻めきれないでいた。


「ふん、生意気ね。人間どもが!」


 怒りを乗せて魔王の剣が唸る。それが俺たちを振り払い、四人は一旦、後ろに下がる。その隙に魔王は手をかざし、無数の闇色の球体を発生させ、俺たちに放つ。闇色の球体が爆発し、対魔法防御のある鎧を着込んでいるとはいえ、衝撃は受けて全員吹っ飛ばされる。

 そのまま魔王はまずリスティに向い剣で斬り付けようとする。リスティは片刃剣を振り上げ、なんとかその斬撃を受け止める。そのままリスティは立ち上がり、魔王の剣と片刃剣を打ち合わせ、戦う。エリア、クー、そして俺も魔法の衝撃から回復し、戦線に復帰する。魔王は剣を振るい、四人の攻撃を凌ぐ。大した力量、と言わざるを得ないが、流石に魔王も押されがちになって来る。こちらも伊達に鍛錬を重ね続けて来た訳ではない。俺の黄金の剣が唸り、ついに魔王の左腕を切断する。魔王は怒りの表情を浮かべ、残った右腕で剣を振るうが、明らかに不利になっていた。エリアの槍が魔王の体に突き刺さり、リスティの片刃剣が魔王を斬り付ける。仇討ちに燃えるクーも剣で斬りかかり、魔王の体に傷が刻まれていく。


「この人間風情が!」


 魔王は怒りの声を発する。すると、斬り落としたはずの左腕を再生し、再び両手を使い、剣を振るう。そこら辺は魔王だけあって人間を超越しているのだろう。だが、俺たち四人は連携して攻撃を仕掛け、俺の黄金の剣、リスティの片刃剣、エリアの槍、クーの剣が一斉に振るわれ、魔王を切り裂く。これに魔王はついに倒れた。


「ぐ、が、は……人間、などに……」


 魔王は倒れ、絶息する。魔王撃破。これにこちらの士気は大きく上がった。反対に魔王を失った魔物たちの軍勢は動揺し、混乱する。その隙を突き、ベイルの町防衛隊は一気に盛り返し、魔物の軍勢を撃退する。魔王を討ち取った事は大きかった。


「ついに魔王を倒せたわね!」


 リスティが歓喜の声を上げる。


「私たちの結束の力です!」


 エリアも声を上げ、クーも感激していた。


「ついに仇を討ったよ……みんな!」


 仇討ちを果たしたクーはそう言って天にいるであろう魔王に滅ぼされた故郷の人たちに語り掛ける。


「魔王を討ったのです! 残りの魔物など敵ではありません!」


 俺もそう言い、魔王を討った事を喧伝する。

 これで勢いを増したベイルの町防衛隊は魔物たちを撃退する事に成功した。魔王討伐。その一報は一気に大陸中に知れ渡る事になった。

 俺たちはベイルの町の宿屋に戻る前に防衛隊の駐屯地にいた。


「いやぁ、流石は聖女様たちだ! 魔王を討ち果たしてくれるとは!」


 ご機嫌に兵士長がそう言う。他の兵士たちも感激している様子であった。無理もない。人類の敵、魔王を討ったのだから。


「このために私たちは鍛錬を重ねて来たのです。魔王を討ち滅ぼして、平和も訪れる事でしょう」


 俺はそう言って魔王亡き後の世界に思いを馳せる。魔王が消え去った事で魔物たちも大人しくなるであろう。そうなれば平和な世界が待っている。


「それでは聖女様には聖教会に戻っていただき、聖女様としての務めを果たしていただく時ですね」


 エリアがそう言う。聖教会か。また退屈な日々が待っているのかな、と思うと少しうんざりするが、平和になったのだから聖教会に戻るのは当然だった。


「聖女様には世話になったわ。この恩義は忘れないわ」

「私も仇を討つ事が出来ました。この恩は忘れません」


 リスティとクーにそう言われる。魔王を討ち果たした後の平和な世界。それを手に入れる事が出来た。


「ええ、魔王を倒せたのは皆さんの力のおかげです。これからも平和を守っていきましょう」


 俺はそう言って笑みを浮かべる。魔王がいなくなった後の世界。そこには希望が広がっていると考えて間違いはなかった。

 新たなる人類の夜明けである。それはきっと大きな希望がある事だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る