第17話大型ドラゴン討伐


「そろそろこの山脈の最奥の大型のドラゴンと戦ってもいいんじゃない?」


 リスティの一言でそれは始まった。このベイルロディア山脈でドラゴン相手の戦いもそれなりに楽にこなせるようになってきていた。ならばこの山脈の主と言える大型のドラゴンとの戦いを切り出すのも当然と言えた。俺は戦っても勝てる相手だと思うが、エリアが異を唱える。


「……ですが、大型のドラゴンは強力です。今の私たちで勝てるかどうか……」

「勝てると思いますよ、エリアさん。今の私たちなら大型のドラゴンとも戦えます」


 押しが弱いと思っていたクーが強気な事を言う。リスティもそれに頷く。


「ええ、私たちなら大型のドラゴンにも勝てるわ。聖女様もそう思うでしょ?」


 水を向けられ、俺は答えに迷ったが、思うがままを答える事にした。


「そうですね。今の私たちなら大型のドラゴンとも戦えると思います」

「聖女様まで……そうですね、今ならいけるかもしれません」


 俺の言葉にエリアも頷く。そうだ。ここで大型のドラゴンを倒せるくらいでなければ魔王を倒す事などとても出来ない。いつかは挑まなければならない敵であった。

 そうして、俺たちはベイルロディア山脈の最奥に行き、大型のドラゴンと戦う事にした。道を阻むタイガー・ドラゴンもフィアー・ワイバーンもそう苦戦せずに倒し、ベイルロディア山脈の最奥地に到達する。そこにそのドラゴンはいた。

 巨大な体躯を持つ山脈の主たるドラゴン。その瞳がこちらを向き、殺気を放って来る。俺たちはひるまず己の武器を構えて、大型のドラゴンと相対した。


「さて、こいつがここの主ね」


 片刃剣を構えて、リスティが大胆不敵にドラゴンを見上げる。ドラゴンは口から火炎を吐き、まずは挨拶代わりにした。

 それを俺たちは散開して回避する。火炎を弾く鎧があるとはいえ、大型のドラゴンだけあって放たれる火炎の規模が大きい。鎧だけでは全てを防ぎ切る事は出来ないと判断してだ。そうして火炎を回避し、リスティが先陣を切る。片刃剣でドラゴンに斬りかかる。その硬い鱗に片刃剣は弾かれる。分かってはいたが、最上位のドラゴンの鱗は並のドラゴンとは比べ物にならない硬さだ。エリアとクーも攻撃を仕掛ける。エリアは槍で刺突を繰り出し、クーは剣で斬りかかるが、ドラゴンの鱗に弾かれる。それでもドラゴンを苛立たせるには充分のようだった。再び火炎が放たれ、一同はそれを回避する。


「喰らいなさい! フレア・ブラスト!」


 リスティが魔法を唱えて、ドラゴンに攻撃する。間近での爆発にドラゴンが呻く。クーもエア・スラッシュの魔法を唱えて攻撃。真空の刃がドラゴンの肌を切り裂く。その隙を逃さずにエリアは槍でドラゴンに刺突を繰り出す。これらの攻撃でドラゴンは怒りの火炎を反撃に繰り出して来たが、それも回避する。俺も前に出る時か。剣を抜き、その剣が黄金の輝きに包まれているのを確認すると俺も斬りかかる。ドラゴンの硬い鱗も神の加護を受けた剣は切り裂き、ドラゴンは鮮血を散らす。リスティも片刃剣で斬り付け、エリアは槍を突き刺し、クーも剣で斬り付ける。それらは鱗を貫く事は出来なかったが、ドラゴンにダメージは与えているようであった。リスティの片刃剣が振るわれる。それはドラゴンの鱗を貫き、その下の肌を切り裂く。リスティの力量はここで鍛錬を始めた頃に比べると比べ物にならない程に上がっていた。それはエリアもクーもそうなのだが、リスティは特に腕を上げている。片刃剣をドラゴンに叩き付け、その鱗を切り裂き、肌を裂く。自らの肌を傷つけられた事にドラゴンは怒り狂い火炎を放って来るがそれを回避し、蝶のように舞い、蜂のように刺す。パワーでは圧倒的にドラゴンが上だろうが、機敏さではこちらが上だった。

 エリアも、クーも、それぞれの武器で攻撃を仕掛け、ドラゴンにダメージを与えていく。俺も斬りかかり、ドラゴンの鱗を切り裂き、ドラゴンが絶叫を上げる。

 行ける。相手が大型のドラゴンといえど、今の俺たちなら勝てる。その確信を抱く。リスティの片刃剣が再びドラゴンの鱗を切り裂く。さらにリスティはフレア・ブラストの魔法を唱えて、ドラゴンを攻撃する。クーも剣での攻撃と共にエア・スラッシュの魔法を繰り出し、ドラゴンを攻撃する。エリアも鋭い刺突を放ち、ドラゴンにダメージを与える。これらの一斉攻撃でドラゴンはあちこちから血を流しながらも尚も闘志は折れず、こちらに火炎を吐き出してくる。それを回避しつつ、俺は後ろに回り込み、神の加護で黄金の輝きを帯びた剣で斬り付ける。それはドラゴンの太い尻尾を切断した。


「このお!」


 リスティも後ろに回り込み、ドラゴンの背から上って行き、ドラゴンの頭の上に立つ。そうして片刃剣をドラゴンの脳天に叩き付ける。これは効いたようだった。狂ったようにドラゴンが身をよじり、リスティを振り落とす。その隙は逃さずエリアとクーが攻撃を仕掛け、すぐに体勢を立て直したリスティも片刃剣をドラゴンに叩き付ける。これらの攻撃にドラゴンはついに倒れ伏した。力なく巨体が倒れ、俺たちの勝利を教えてくれる。


「やったわ!」


 真っ先に喜んだのはやはりリスティであった。エリアもクーも満更でもない顔をしている。俺も喜びを満面に表す。


「ドラゴン撃破! できましたね、皆さん!」


 俺の言葉に一同は頷く。大型のドラゴン。厄介な相手であったが、なんとか撃破する事が出来た。


「この勢いで魔王もイチコロよ!」

「あまり調子に乗るのは良くないですよ。今回のドラゴン相手も楽勝という程ではありませんでした」


 興奮するリスティに釘を刺すエリア。確かに倒せた事は倒せたが、楽勝という程ではなかった。それでもドラゴンを倒せたというのは大きい。

 神の加護を受けている俺は置いておいて、他三人の力量も格段に向上しているという事なのだから。神の加護を受けた俺なら魔王ともそれなりには戦えるが、一人で倒すのは不可能だ。三人と連携して、魔王を討ち果たさなければならない。そのためにも三人が確かな実力を付けてくれているのは喜ばしい事だった。この勢いで魔王にも対抗出来るだけの力を付けて欲しいと思う。

 今日はまだ日が高かったが、大型のドラゴンを倒したとの事でこのまま山脈を下りるのに異論のある者はいなかった。全員してベイルの町に戻り、休息を取る。

 魔王を倒すのに欲を言えば今日、戦ったレベルのドラゴンを楽勝で倒せるくらいになっておかないといけないのだが、あんな大型の強豪ドラゴンがそうそういるはずもない。明日からはまた他のドラゴン相手に鍛錬で地力の底上げをするべきだろう。そう思っていたのだが、翌日、宿から目を覚ますと町が大騒ぎになっていた。

 何だろう、と思い、話を聞くと、


「魔王だ! 魔王がこの町に攻め込んで来た!」


 人々はパニックに陥りながらそんな事を叫ぶ。魔王! あの魔王が直々にベイルの町に攻め込んで来たというのか。


「まさか魔王が直々に攻め込んで来るなんて……」


 エリアも困惑を示す。


「ですが、ここで魔王を討ち取るチャンスです!」


 反面、クーはやる気だ。魔王に故郷を滅ぼされた身。仇討ちの機会に燃えているのだろう。


「今の私たちなら魔王相手にも戦えるわ!」


 リスティも強気に魔王に対抗する姿勢を示す。

 そうだ。ここで魔王を討ち取り、平和を取り戻すのだ。俺もそう思い意気込みを固める。

 魔王は軍勢を率いてベイルの町に攻め寄せて来た。ベイルの町を守るためにもここで魔王を倒さなければならない。覚悟を決めて戦いに挑む俺たちであった。

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