第16話魔法の実戦投入


 新しい剣や槍を手に鎧を着込んで四人してベイルロディア山脈に登る。だいぶ、奥地まで行っても戦えるようになってきた。タイガー・ドラゴンを余裕で倒せるくらいにはならないと最奥地の大型のドラゴンの相手は厳しいだろうが。そうして山を登っていると大柄なドラゴンが現れた。あれは……。


「グランド・ドラゴンです! なかなかに厄介な敵です! 気を付けて!」


 エリアが注意喚起をする。リスティが新しい片刃剣を抜き放ち、エリアが新しい槍を、クーが新しい剣を構える。新しい武具の試しとしては丁度いいかもしれない。

 三人は三方向からグランド・ドラゴンに相対した。リスティが先陣を切り、片刃剣でグランド・ドラゴンに斬り付ける。その刃は硬い皮膚に弾かれ、剣が跳ね返される。新しい剣は逸品のはずだが、それをも弾くか。エリアとクーが続き、槍と剣で攻撃を仕掛けたものの、それも硬い肌に弾かれる。なかなかの硬度を持った肌のドラゴンのようだ。

 グランド・ドラゴンは炎を吐き、攻撃して来る。それはリスティに命中したが、新しい鎧に弾かれ、炎でダメージを受けない。新しい鎧は確かに頼れるものと言えるようだ。引き続きリスティは片刃剣でグランド・ドラゴンに斬り付ける。いくら硬い皮膚と言えども連続して攻撃を受ければ流石にダメージは入る。エリアも槍で刺突を繰り出し、クーも剣で斬り付ける。

 鬱陶しそうにグランド・ドラゴンは炎を吐き、一掃しようとするが、炎に対しては新しい鎧がある。それで弾き返し、ひるむ事無く攻勢を仕掛けていく。片刃剣と槍と剣がグランド・ドラゴンの皮膚に当たり、ダメージを与える。そうして、リスティが思いっ切り片刃剣を振りかぶり斬り付ける。片刃剣はグランド・ドラゴンの硬い皮膚をも貫き、その肌を切り裂く。タイガー・ドラゴンがスピードに優れているのなら、グランド・ドラゴンはタフネスに優れているドラゴンだが、その防御も崩れ始めた。切り裂かれた所から血を流し、グランド・ドラゴンは咆哮する。逆鱗に触れた、というヤツだろうか。グランド・ドラゴンは狂ったように炎を吐き出し、こちらに攻撃して来る。

 いくら鎧で炎を防げるとはいえ、これには流石に三人共、一旦、後ろに引き下がる。


「練習中の魔法を試してみる時かもね!」


 リスティがそう言う。魔法? そんなものを習得していたのか。確かに剣だけでなく、魔法もあれば魔王相手の戦いに優位に進める事が出来る。リスティは片刃剣を振るう。そこからエネルギーの球体が出現し、グランド・ドラゴンに向って飛ぶ。


「行けー! フレア・ブラスト!」


 エネルギーの球体はグランド・ドラゴンに命中し、爆発する。その威力は高く、グランド・ドラゴンは太い前足の肉をごっそりえぐり取られていた。グランド・ドラゴンの炎が弱まる。その隙に三人は前に出て片刃剣と槍と剣で攻撃を仕掛ける。これに切り裂かれては堪ったものではなくグランド・ドラゴンは絶息する。

 グランド・ドラゴン撃破。三人の間に歓喜のムードが広がる。それを後ろで見ていた俺にも。


「凄いじゃないですか、リスティ! 魔法なんて使えるようになっているなんて!」


 俺は思わずリスティに称賛の声を届ける。いつの間にあんま魔法を練習していたのだろう。ともあれ、これも対魔王戦で大いに役に立つ事に間違いはなかった。


「見事ですね」

「私も負けないように頑張らないと……!」


 エリアもリスティを褒め称え、クーは自身の一層の奮起を目指す。リスティが魔法を習得したのは大きな事だろう。そうしていると空から耳障りな鳴き声が響く。ワイバーンか、と思った俺だが、エリアが否定する。


「あれは! フィアー・ワイバーン! ワイバーンの上位種です! 皆さん、気を付けて!」


 ワイバーンの上位種! で、あればさらに強いと言う事だ。リスティもクーもその言葉に気を引き締めて剣を構える。空から来るワイバーンに対しては俺だけが後ろで見ているというのも難しい。俺も剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるようにする。

 フィアー・ワイバーンの空襲を最初に受けたのはクーだった。剣と新しい鎧でそれをなんとか弾き返し、斬り返そうとするが、その時にはフィアー・ワイバーンは空高くに登っている。早い。一撃離脱戦法にも磨きがかかっているようだ。

 フィアー・ワイバーンはリスティにも攻撃を仕掛ける。リスティは片刃剣でそれを弾く。空中の敵との戦いにもワイバーン種とこの地で何度も戦っているだけあってある程度は慣れたものであった。片刃剣で攻撃を弾きながら、相手の羽根を狙って斬撃を繰り出すが、今回のフィアー・ワイバーンは警戒心が強いらしく簡単には羽根を切り裂かれないように素早く空中に離脱する。

 エリアは槍を振るい、なんとかフィアー・ワイバーンを打ち落とそうとするのだが、フィアー・ワイバーンは空を自在に駆け、攻撃を回避する。さらにエリアが攻撃を繰り出した後の隙と見るや舞い降りて来て爪で攻撃を仕掛けて来るのだから堪らない。厄介な敵だ、と思うが俺も他人事ではいられなかった。

 こちらにもフィアー・ワイバーンは攻撃を仕掛けて来る。相変わらず俺の剣は神の加護で黄金のオーラを纏っている。それでフィアー・ワイバーンの攻撃を凌ぎ、斬り返す。しかし、剣の威力が高くても当たらなければ意味がない。空中を自在に駆けまわるフィアー・ワイバーンはこちらの攻撃を回避し、自身の攻撃をこっちに浴びせて来る。厄介な魔物である。


「私も魔法の練習はしていました! 今こそそれを使う時です!」


 そんな時、クーがそう言って、剣を構える。クーも魔法の修練を? 驚く俺たちに構わずクーは魔法を唱える。


「行きます! エア・スラッシュ!」


 真空の刃が放たれ空中のフィアー・ワイバーンに命中する。その羽根を切り裂き、フィアー・ワイバーンの高度が落ちる。そこにクーは剣で斬りかかり、フィアー・ワイバーンの一匹を倒す。空を駆けるフィアー・ワイバーンに風の魔法は効果抜群と言った所か。


「負けてられないわね!」


 リスティもそんなクーの奮戦に奮起し、片刃剣を振るってフィアー・ワイバーンに対抗する。

 フィアー・ワイバーンが攻撃を仕掛けて来た瞬間を狙って片刃剣を振るい、フィアー・ワイバーンの爪は新しい鎧が弾き、自身の剣がフィアー・ワイバーンを斬り裂く。フィアー・ワイバーンが高度を落とした隙を狙って追撃の一撃を繰り出し、フィアー・ワイバーンを撃破する。

 エリアも槍を振るい、フィアー・ワイバーンと戦う。フィアー・ワイバーンの攻撃をやはり新しくなった鎧で凌ぎ、反撃の刺突を繰り出し、フィアー・ワイバーンの肌を槍で貫く。それでダメージを受けた所に追撃の刺突を繰り出し、フィアー・ワイバーンを仕留める。

 俺に襲い掛かって来たフィアー・ワイバーンにも俺は神の加護を受けた剣を振るい、対抗した。剣を振るい、剣先から黄金色の波動を飛ばし、フィアー・ワイバーンに放つ。これはフィアー・ワイバーンにとっても予想外のようだった。黄金の波動を受けて、ダメージを負ったフィアー・ワイバーンに俺は黄金のオーラの加護を受けた剣で斬りかかり、斬り捨てる。

 これにてフィアー・ワイバーンは全て撃破された。一同の間に安心した雰囲気が流れる。


「ふぅ、厄介な敵だったけど、なんとかなったわね」


 リスティがそう言って勝ち誇る。確かに厄介な敵であったが、なんとか撃退する事が出来た。もっともこれくらいで苦戦しているようではまだまだ魔王相手に戦うなど無謀の極みである事も一同は理解していた。


「まだ日は高いです。もう少し鍛錬を積みましょう!」


 クーがそう言って意気込みを示す。その言葉に否を唱える者は誰もおらず、今日はしばらくこのまま山脈で戦う事にした。リスティとクーは魔法を習得している。ならばそれも磨いていって、魔王相手の戦力とするべきであろう。

 俺たちはそのまま日が暮れるまでベイルロディア山脈でドラゴンたちと戦い、自らの力を鍛えるのであった。

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