第15話新品の武具


 タイガー・ドラゴン相手に渡り合う。リスティの片刃剣が唸り、タイガー・ドラゴンに振り下ろされるが、俊敏なタイガー・ドラゴンはその瞬間には後ろに飛び退いている。そして、振り下ろしの体勢になった隙を見るや体をしならせ、リスティに牙を向けて襲い掛かる。リスティは体を捻ってそれを回避し、そのまま回転。片刃剣をタイガー・ドラゴンの体に食い込ませた。これにタイガー・ドラゴンは絶叫し、血を流しながら、一旦、警戒して後ろに下がる。

 エリアに襲い掛かるタイガー・ドラゴンも俊敏にエリアを攻めていたが牙と爪の攻撃を槍の柄で弾き返され、隙を狙いすました鋭い刺突を繰り出され、それが体を貫く。堪らずタイガー・ドラゴンは下がるが、すぐに前に出て怒り狂い、エリアに襲い掛かる。


「この!」


 エリアは槍を繰り出し、タイガー・ドラゴンはそれを回避して横に跳ねる。そのままタイガー・ドラゴンはエリアに襲い掛かろうとするが、槍を手持ちに引き戻したエリアが再びの刺突を繰り出す方が速かった。タイガー・ドラゴンの脳天を槍の穂先が貫き、絶命させる。

 クーもタイガー・ドラゴンと戦っていた。剣でタイガー・ドラゴンの攻撃を弾き返し、返す刃で斬り付ける。しかし、タイガー・ドラゴンは俊敏でそれらを回避し、クーに猛攻をかける。これにやや押されがちになっているクーであるが、なんとか互角の戦いを繰り広げ、タイガー・ドラゴンと戦っていた。

 タイガー・ドラゴンの繰り出す牙と爪を剣で弾き、反撃を繰り出す。タイガー・ドラゴンの速度にやや翻弄され気味になっているようであったが、なんとか喰らい付いて行く。タイガー・ドラゴンが不用意にクーに接近した一瞬の隙をクーは見逃さなかった。剣で斬り付けて足の一本を切断する。これにタイガー・ドラゴンは絶叫を上げる。前足を一本失い、露骨にタイガー・ドラゴンの速度が下がる。そこにクーは斬り込み、トドメを刺す。


「な、なんとか、倒せました……」


 そう言いつつ勝利の余韻に浸るクーであった。

 リスティもタイガー・ドラゴン相手に詰めの一手に差し掛かろうとしていた。片刃剣の攻撃を受けたタイガー・ドラゴンは明らかに速度が鈍っている。そこに連続して斬り付けて赤い血を流させ、咆哮するタイガー・ドラゴンにも構わずリスティは片刃剣を叩き付ける。これでタイガー・ドラゴンは血に倒れ伏し、息絶えた。


「さて、今日の鍛錬はこんな所かしらねー」


 なんてこともなさげにリスティはそう言って、片刃剣を鞘に収める。


「ベイルの町に帰りましょう。寄る所もあります」


 エリアはそう言った。鍛錬が終わったのだから、ベイルの町に帰るのは当然として寄る所? 疑問に思い、俺とリスティが訊ねる。


「エリア、寄る所とは?」

「ちょっと、聞いてないわよ?」


 それにエリアは答えを濁した。


「行けば分かります。とにかく、私に付いて来て下さい」


 俺とリスティは首を傾げながら付いて行く。クーには特に異論はないようであった。

 寄る所。そこは鍛冶屋だった。エリアが扉を開けて中に入って行く。


「この町に来た時に依頼を出しておきました。全員分の鎧を」


 そう言い、鍛冶師に話しかける。既に話は通っているようであった。


「よう。あんたらが依頼主かい。特注の剣に槍。耐熱・対魔力の処置が施した鎧一式、準備してあるぜ」


 髭面の鍛冶師はそう言って自慢げに顎をしゃくる。そこには四人分の武具が立てかけられていた。


「これが町に来た時に言っていた武具の以来ね!」


 嬉し気にリスティが言うが、エリアはバツが悪そうに俺を見た。


「申し訳ありません。聖女様にも秘密で依頼してしまって……」

「いえ。ここから先、ドラゴンや魔王と戦う上でこれは重要な戦力となる物です。ありがとう」

「確かに役に立ちそうね」


 俺がエリアを咎めない趣旨の言葉を言い、リスティも出来上がった武具一式には不満がないようであった。それなりにお高そうであるが、そこは聖教会から出た旅の資金で料金を払ったのだろう。何にせよ、これを手に入れられるというのなら文句はない。


「わ、私も、いただいていいんでしょうか?」

「クーも私たちの仲間です。当然です」

「あ、ありがとうございます! エリアさん!」


 遠慮がちに言ったクーにエリアが微笑みかけ、クーは感激した様子で剣と鎧を手に取る。クーも当然、俺たちの仲間だからな。それに相応しい装備を与えるのは当然の事だ。


「あんたたち、何と戦おうってんだい? このレベルの武具を求められる事なんてそうそうないぜ?」


 武具を作ってくれたらしい鍛冶師はそう言って、笑いかけて来る。本心から疑念を抱いているのではなく世間話だろう。


「それは……まぁ、魔王討伐を」

「ははは! 冗談にしてもなかなか面白い!」


 俺は正直に答えたのだが、鍛冶師は冗談と受け取ったようだ。とはいえ、ドラゴンや魔王と戦うのでもなければこんな上質な武具は求めないだろう。切れ味の良い剣は元より鎧の耐熱仕様は火炎を吐く種も少なくないドラゴンと戦った際に役に立つし、対魔法仕様も強力無比な魔法を駆使する魔王との戦いを見越すのであれば当然備えておくべき措置だ。それをエリアが察知して、依頼を出しておいてくれた事には感謝しかない。


「エリア。ありがとう。これらは魔王と戦う上で大きな力となります」

「聖女様……いえ、勝手な事をしてどうかと思ったのですが、喜んでいただけているのであれば幸いです」


 俺の言葉にエリアは恐縮して返す。実際、エリアの手配は理にかなっている。褒める事こそあれど、責める事など何もない。

 全員で武具を受け取り、宿に戻る。とりあえず鎧を試着してみようという事になったのだが、女性陣は全員気にする事なく鎧を脱ぎ、上半身に下着だけの姿になりながら鎧を着けるのだから俺は目のやり場に困った。いや、俺自身も巨乳聖女になっているのだから鎧を着ける時はそれが嫌でも目に付いてしまうので今更なのかもしれないが。そうやって全員、鎧を着用し終わり、宿のそこまで大きくはない部屋の中で体を動かしてみる。


「うん! いい感じね!」


 リスティがそう言って、歓声を上げる。実際、鎧は動きを妨げる事なく、剣を振るう上でも問題はなさそうだった。


「これなら私も戦えます!」


 クーも嬉し気な声を漏らす。彼女のサイズに合わせた小さ目の鎧であるが、問題はないようであった。


「私も問題ありませんね。聖女様たちの足を引っ張る事はなさそうです」


 エリアもそう言って、満足げな言葉を残す。彼女にとっても問題はないようであった。この分なら槍を振り回すのも大丈夫だろう。


「私の方も大丈夫です」


 そして、俺も初めて着た鎧の感触に満足していた。前の鎧のような豪華絢爛さはなく、胸元の聖教会の紋章もないが、実利を求めるのならこちらの鎧の方がいいだろう。そして、俺は見栄や豪華さなどよりは実利を求める。この鎧で全く問題はない。聖教会の神官たちが聖女が教会の紋章も描かれていない武骨な鎧に身を包むなど聞いたらひっくり返るかもしれないが。


「そろそろ大型のドラゴン相手に挑んでもいいんじゃない?」


 新しい武具を得て自信を得たのかリスティはそう問い掛けて来る。しかし、タイガー・ドラゴン相手は楽勝とはいえない戦いだったのだ。まだ一番の大物に挑むのは早いだろう。


「まだ早いと思います。最低でもタイガー・ドラゴンを楽に倒せるくらいはなければ……」

「聖女様の言う通りです。我々はタイガー・ドラゴンにも苦戦した。まだ大型のドラゴン相手は時期尚早でしょう」

「んーむ、そっかー」


 納得していない様子のリスティだったが、事実として大型のドラゴンに挑んで返り討ちにあったのでは堪らない。魔王討伐どころではないのだ。ここはさらに鍛錬を積むべき場面だろう。

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