第10話ベイルの町に到着
敵魔物はドラゴンのものによく似た頭部でこちらの様子を伺うと口を開く。やはりドラゴンとしか形容しようのない口が開くとそこには鋭い牙が無数に並んでいる。あれに噛み付かれたらひとたまりもないであろう。俺たちはフォーメーションを取って、囲い込むように魔物を包囲する。そして、一斉にかかった。
「はあ!」
まずリスティが片刃剣で斬り付ける。それは魔物の肌に当たったが切り裂く事は叶わず打撃を与えただけに留まる。
「しっ!」
エリアが槍で突きを繰り出す。これも魔物の肌に当たるも貫く事は出来ず、弾かれる。
「せいやぁ!」
クーも剣で斬りかかるが、やはり、斬れない。硬質な肌に弾かれ、剣が弾き返される。
「このお!」
最後に俺が斬りかかる。俺の剣には神の加護で黄金の輝きが纏われている。その剣で斬ると肌を切り裂き、鮮血が舞った。やはり神の御加護。普通の武器で戦うのとは一味も二味も違う。斬撃を受け、魔物が絶叫する。そして、俺に爪を向けて来るのを俺は慌ててバックステップして回避する。
「流石は聖女様ね!」
リスティがそう言いつつ、自身も回り込み片刃剣で斬り付ける。斬る事は出来なかったが注意を惹くには充分。リスティの方を魔物が向いた隙にエリアが再び連続突きを繰り出し攻撃する。クーも剣で斬りかかる。そして、俺も黄金の剣で斬撃を放つ。黄金の斬撃は魔物の肉体を切り裂く。
「グガアアアア!」
魔物は絶叫し、大口を開く。そこから火炎が放たれ、俺に向って飛ぶ。
「聖女様!」
エリアの悲鳴が響くが、俺に当たる直前で火炎は黄金のオーラのようなもので弾かれて掻き消える。これも神の御加護のおかげというヤツか。
「だああっ!」
神の加護が防御にも働いているのならもう攻め手を休める理由は存在しない。俺は無警戒に駆け出し、黄金の剣で魔物を斬り付ける。そうして、魔物にトドメの一撃を繰り出す。その脳天に黄金の剣を突き刺し、魔物の脳を串刺しにしたのだ。これには堪ったものではなかったらしく、魔物は倒れ込むと、再び動き出す事はなかった。
「聖女様、凄いわね!」
「流石です、聖女様」
「私たちなんかとは違いますね」
三人が俺を称賛してくれるが凄いのは神の加護のおかげだ。俺自身は全く凄くない。それが分かっていただけに「いえ」と謙遜のような言葉を残し、それ以上は何も言わなかった。
「ともあれ、これで洞穴を抜けるわ。ベイルの町までは後一歩よ!」
リスティが元気良くそう言い、明かりの方向、出口に向かって駆け出す。性急な、と思わないでもないが、俺たちもそれに続く。
洞穴の外に出ると久しぶりに太陽の光を浴びる事が出来た。あんなじめじめ洞穴の中にいてはしけってしまう所であった。
「ベイルの町までは後どれくらいなんですか?」
「洞穴を抜ければすぐ傍のはずよ」
俺の問いにリスティは答え、地図を取り出し、歩き出す。それに俺たちは続く。しばらくすると町が見えて来た。確かにすぐそこである。
ベイルの町に入る。ようやく辿り着いた目的地である。王都ブラーサー程ではないがベイルの町はそれなりに活気のある町で人口も多いようだ。俺たちのような冒険者も少なくなく、そう浮く事なく周囲に溶け込む事が出来た。とりあえずこの町を拠点として鍛錬を行うのだから本拠となる宿を探そうと言う話になった。リスティは安い風呂無しの宿を希望したが、エリアが聖女様をお風呂に入れないなど言語道断と譲らず、風呂は付いている中級レベルの宿を取る事にした。まぁ、教会から旅の資金はたんまりもらっているので、金には困ってはいないのだが。ついでに言うと俺としてもこの体でお風呂に入るのは色々とあれなので風呂なしの方がよかったりしたのだが。
部屋割りでもエリアは聖女様は個室を、と提案したが、そこまで贅沢するのも何だし、個室だと警護が出来ないだろうという事で普通に四人部屋を取った。二段ベッドが部屋の両すみに置かれており、小さな書記机が一つ。特に読書などの趣味はないのでこれで困らないだろう。
「さて、とりあえず今日は休みますか。ベイルの町までの旅路で色々疲れているしね」
リスティのその言葉に反論する者はいなかった。あんな洞穴を魔物たちと戦いながら抜けて来て、みんな疲れている。俺も神の加護を得て戦っているとはいえ、疲労しない訳ではないのだ。今日の所は食事も食べずに泥のように眠りたい気分であった。
「聖女様、何をしているのです」
「え、眠ろうかと思ったのだけど……」
「洞穴などを抜けてお体が汚れています。私が洗って差し上げますからお風呂に入りましょう」
またエリアと風呂、か。色々とマズいんだけどなぁ、でも、仕方がないのか。俺は観念してそれを受け入れるのだった。
・
「の、のぼせる……」
風呂から上がり、ベッドに倒れ込む。お湯の熱気とは別の理由で頭が沸騰しそうだ。これから毎晩、エリアと一緒に風呂でこうなるのか……。そう思うと堪ったものではなかったが、聖女の体である以上、それを拒むのも不自然だ。
「聖女様、そんなに長湯していないわよね?」
「私は聖女様の大事なお体なのですから、もっと時間をかけてじっくり洗うべきだと思うのですが……」
風呂から上がった後のリスティやエリアがそんな事を言う。長々と風呂に浸かるなんて勘弁。転生前は別に早風呂だった訳じゃないけれど、この聖女の裸体を見ているのはそれだけで罪に思えてしまう。さっさと洗ってちゃっちゃと上がるのが一番だ。それでも顔は真っ赤になってしまうのだけど。
「とりあえず今日はこれで休みましょう」
クーが言う。異論のある者はいない。ベイルロディア山脈とやらに行くのは明日からになるだろう。
「それじゃあ、休みましょう。おやすみなさい、皆さん」
俺はそう言い、さっさと眠りに就く事にする。体が疲れていたらしいそう時間のたたない内に意識は落ちて行った。
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