第9話アコーズ洞穴越え


 俺、エリア、リスティにクーを加えて、女四人でサーウの町を旅立つ。色々と物騒だとは思うが、エリアもリスティもクーも並の戦士を凌ぐ実力者だ。俺も聖女として神の御加護を得られれば絶大な力を発揮出来る。問題はないだろう。この面子で魔王討伐をしようと言うのだ。とりあえあずベイルロディア山脈で鍛錬するためにベイルの町に行く。そのためにアコーズ洞穴とやらを抜けてショートカットしようと俺たちはそちらに進む。道を示す地図はリスティが持っているようなのでそこも心配ない。そう思っていると魔物たちが襲い掛かって来た。狼型の魔物たちだ。


「ビッグ・ファング・ウルフね。クー、貴方の力を見せてもらおうかしら」


 リスティはそう言って、実力が未知数なクーに視線を向ける。クーは頷くと剣を抜き放った。それで迫り来る狼に対抗する。クーの小さな体では食い殺されてしまうのではないかと俺は危惧したが、杞憂だった。迫り来る狼に斬撃を叩き込み、瞬く間にクーは狼を倒してのける。


「へぇ……」

「なかなかやるな」


 リスティもエリアも感心した様子だった。そう言う二人も武器を手に取り、狼に対抗する。リスティが片刃剣で狼を切り裂き、エリアは槍で狼の体を貫く。二人共、この程度の魔物に後れは取らないようであった。仮にも魔王討伐を掲げているだけの事はある。クーも剣を振るい、狼たちを撃退していく。俺は守られる立場にあり、剣を振るう事はなかったが、ビッグ・ファング・ウルフとやらは瞬く間に全滅していた。


「まぁ、こんなもんでしょ」


 リスティが満足げに言って片刃剣を鞘に収める。


「私の力、分かってもらえたでしょうか?」

「ああ、充分だ」


 遠慮がちに問い掛けて来るクーにエリアが言葉を返す。実際、その幼さであれだけ戦えるのなら大したものだと俺も思う。充分、頼りにしていい戦力のようだ。魔王憎しで腕を磨いたのは伊達ではないらしい。


「それじゃあ、アコーズ洞穴に入るわよ。どこから敵が襲って来るか分からないから聖女様も戦ってね」


 リスティがそう言い、エリアが何か抗議しかけたがそれを俺は制し、洞穴に入る。リスティがアイテムボックスとやらから松明を取り出し、火を灯し、灯りにする。足場も悪く、見るからにおどろおどろしい洞穴の中であった。ここなら魔物も大勢生息している事だろう。仮にも日の光に当たっていた外の平原とは違うのだと言う事を実感させられる。

 そう思っていると身長2メートル超程の大柄な人型が大量に現れた。これは、オーガというヤツか。


「オーガだ!」


 どうやら俺の推測は当たっていたようだ。リスティはそう言うが彼女は片手で灯りとなる松明を持つ身。自由には戦えない。エリアとクーだけに任せるのも酷だろう。俺も剣を引き抜き、それで戦う事にした。相変わらず俺の剣には黄金色の輝きが宿り、神の加護がある事を教えてくれる。


「聖女様、気を付けてください」

「分かっています。ですが、戦わない訳にはいきません」


 エリアから注意喚起されるが、俺もここで退く気はない。剣を振るい、オーガに斬り付ける。オーガは剣を手にしていたが、それに斬撃を打ち付け、神の加護を得た剣で打ち破って行く。エリアとクーも槍と剣でオーガと戦う。剣を武器に振るうオーガは厄介な敵であったが、全く対抗不可能という事はない。むしろ、この程度で苦戦していては魔王を倒すなど夢物語であろう。オーガを次々に斬り倒していく。神の加護を得た俺の剣はオーガの剣を遥かにしのぎ、次々に斬り倒していく。エリアの槍での攻撃やクーの剣捌きもなかなか見事なものでオーガたちはそう時間の経たない内に全員、地面にひれ伏す羽目になった。


「やるわね、聖女様」


 リスティがそう言って俺を褒め立てる。


「いえ、神の御加護のおかげです」

「聖女様の力があれば魔王を倒すのも夢ではありませんね」


 クーもそう言って興奮した様子を見せる。神の加護を得た俺が戦う所をクーは初めて見たのだからそれも当然か。

 しかし、相変わらず神の御加護というヤツはとんでもないものだ。それがなければこの聖女の体なんて剣を振るう事も出来ないだろうに。それからも洞穴の中を進んで行き、現れた魔物たちを斬り伏せる。黄金の輝きを纏った俺の剣は硬質な甲羅を持つらしいアイアン・クラブなどといった魔物をもスパスパ切り裂き、あっという間に倒していく。羽根を広げ空を駆けるガーゴイルが現れた時には流石に苦戦した。空中から急襲をかけてくる相手に俺は剣でその攻撃を受け止め、反撃を繰り出すのだが、その頃にはガーゴイルは空高くに飛び上がっている。天井のある洞穴の中とはいえ、厄介な事に違いはない。


「このお!」


 俺は剣を振るい、剣先を突き出す。そこから黄金色の波動が放たれ、空中のガーゴイルに命中し、撃ち落とす。神の御加護とやらは本当にありがたいもののようだった。それに動揺した他のガーゴイルたちもエリアとクーが槍と剣で仕留めていき、ガーゴイルの群れを全滅させる事に成功した。


「いやはや、流石は聖女様」


 リスティが感心し切った様子で言い放つ。


「神の御加護のおかげです。私の力は微力なものです」


 そう言って俺は謙遜する。事実、神の加護がなければこんな戦いは出来ないのだから謙遜ではないかもしれないが。

 そのまま洞穴を進んで行く。流石にベイルの町への道をショートカット出来るとはいえ、誰も通らないだけあって魔物の数は多い。朽ち果てた人間の遺体なども転がっており、俺たちと同じくショートカットを目指した結果、魔物にやられてしまった事は明白だった。俺は現代人なのでそういう遺体には流石にビビるが、冒険者として肝の座っているリスティ、聖堂騎士のエリア、魔王に村を滅ぼされたというクーなどはそこまで動揺する事なく、気を引き締めるレベルの反応であった。


「リスティ、洞穴はまだ続いているのですか?」

「もうちょっとで出口のはずなんだけどね……」


 そう言いながら、リスティの松明に照らされる灯りを頼りに進んで行く。すると光が見えた。光が差し込んで来るという事は出口が近いという事だ。正直、あまり気持ちのいい洞窟ではなかったので俺は歓喜し、さっさと抜けてしまおうと思った。そこに一匹の大型の魔物が現れたのだった。


「なっ!?」


 リスティも驚愕の声を出す。その魔物は頭部はドラゴン種に近く、大柄な体躯をした四足歩行の魔物だ。まさかドラゴン!?


「ドラゴンなんですか!?」


 俺は思わず声に出す。それにエリアは否定の言葉を発する。


「いえ、ドラゴンに近い魔物ですが、ドラゴンではありません! ですが、厄介な事に違いはない!」

「あーもう、あとちょっとで洞穴を抜けられるって時に!」


 エリアは既に槍を構え、リスティも光の差し込んでいるこの場所ならもう松明は必要ないと松明を捨て片刃剣を抜き放つ。

 クーも剣を構える。俺も無論、剣を構えて抗戦の姿勢を見せる。俺の剣は黄金の輝きに包まれ、やはり神の加護はまだまだ健在であるようだ。これならドラゴンに近い種といえど、渡り合えるはずだ。俺はそう思う。

 そうして、洞穴を抜ける直前の戦いが始まるのであった。

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