第8話新たな旅の仲間、クー


「お前の目的はなんだ!? 何故、聖女様に近付こうとする!」


 エリアが槍を突き付けかねない勢いで少女に問い掛ける。少女は動揺したそぶりもなく言った。


「落ち着いて下さい。私は聖女様たちの敵ではありません」

「敵じゃないって言われてもねえ……」


 リスティも警戒している様子だ。だが、俺は少女を見て、この少女は敵ではないと思った。聖女だけにある物事を見通す目。この少女はなんらやましい気を持っていない。信頼に値する存在だ。そう思い一歩、前に出る。


「聖女様!?」

「落ち着いて下さい、エリア。この子は敵ではありません。それは事実のようです」


 断言した俺にエリアも流石に引き下がる。俺は少女を見て言った。


「ご察しの通り、私は聖女です。貴方のお名前をお伺いしたいのですが」

「私の名はクー。クー・タリトンです」

「そうですか、クー。私たちに何の用でしょうか?」


 そう問い掛けるとクーは俺を真剣な瞳で見て言った。


「聖女様たちは旅をしていいます。私をその仲間に加えて欲しいのです」

「貴方を、ですか?」

「はい。足は引っ張りません」


 クーは毅然とした態度でそう言うとリスティとエリアを見る。二人はどう反応したものか迷っているようだった。


「足は引っ張らないって、貴方、まだ子供じゃない」


 リスティはクーの言葉が信用ならないと言うように告げる。確かにクーは見かけ、幼い子供だ。だが、それだけで戦えないと決めつけるのはどうか。


「強さに外見は関係ないと私たちはあの魔王との遭遇で知ったはずです」

「……やっぱり、魔王の討伐を目指しているんですね。なら、なおさら、私を連れて行ってください」

「お前は魔王に何か恨みが?」


 俺の言葉にクーが反応し、それに対してエリアが問い掛ける。クーは頷いた。


「私の村は魔王に滅ぼされた。そこから一人で生きて来た。魔王を倒すためなら私はどんな事でもする。そのために聖女様たちと一緒に旅をして、魔王を倒す」

「……なるほど」


 俺は頷く。動機としては文句なしと言った所か。それなら魔王への憎しみも深いだろう。戦力として期待出来る。


「エリア、リスティ。私はこのクーを旅の仲間に迎え入れても良いと判断しました。異論はありますか?」


 俺がそう言いつつ、異論は許さないとの圧力を込めて問い掛ける。エリアもリスティも反論は出来ないようだった。


「聖女様がそう仰るのなら……」

「まぁ、確かに、それなりの戦力にはなりそうね」


 二人共、そう言ってクーを受け入れる姿勢を示す。俺はクーに手を差し出した。


「それでは、これからよろしく頼みますね。クー」

「は、はい! よろしくお願いします、聖女様!」


 クーは俺の手を取り、硬く握る。魔王討伐の旅に新たなメンバーが加わった瞬間であった。


「それでクー。私たちは魔王の情報を広く求めています。貴方は何か知っておりますか?」

「魔王の居城は多分、グラスペイルド山脈の奥地にあると思います」

「その情報はどこから?」


 俺の問いに答えたクーにリスティが問い掛ける。グラスペイルド山脈? 俺は聞き慣れない名だが、相当、険しそうな山脈の名前をしているな。


「私の村はグラスペイルド山脈の近くにあった小村だったので……魔王の軍勢が山脈の方向から攻めて来たのを見たんです」

「なるほど。しかし、グラスペイルド山脈となると厄介ですね……」


 エリアが考え込む。やはり一筋縄にはいかない大地のようであった。そんな場所だから魔王の居城もあるという話に説得力が増す。


「とにかく行くしかないでしょう。いかに人跡未踏の大地と言えど、そこを進まねば魔王の居城に向えないのなら行くまでです」


 これまでの周りの反応からグラスペイルド山脈が人跡未踏の地であると推察した俺はそう言って皆を促す。リスティもエリアも魔王討伐の名目で旅に出た以上、覚悟は出来ているはずだと思いつつ。


「全く、厄介ね。でも、聖女様。今の私たちが魔王の居城に乗り込んだ所で返り討ちに逢うのがオチよ」

「自らを鍛え上げる必要がありますね」


 リスティとエリアはそう言って、自己鍛錬の必要性を示す。俺は神の加護を受ければ魔王ともやり合えるが、リスティやエリアは無理だろう。クーも自信はあるようだが、魔王とまともにやり合えるとは思えない。ならば鍛錬あるのみか。


「そこで提案なのですが……」


 エリアが遠慮がちに口を開く。魔王を討伐するための提案なら何でも聞くつもりでいた俺はその先を促す。


「まずはベイルロディア山脈に行くのはどうでしょう? かの地に生息するドラゴンを倒していけば私たちの力量も上がるはずです。そうすれば魔王に対抗出来るようになるかもしれません」


 そのベイルロディア山脈がどういう所かも俺は知らないのだが、ドラゴンが生息しているのか。それならドラゴンを倒していく内にレベルアップ出来るかもしれないな。


「ベイルロディア山脈となると近くにベイルの町があったわね。そこを拠点にしようって訳?」

「そうなるな」


 リスティとエリアが二人で話を纏めている。俺はこの世界に転生したばかりで地理には疎いので二人に任せておけばいいだろう。クーも不満はなさそうであるし。


「ベイルの町に行くのね。それならアコーズ洞穴を通って行くのが早道よ。そうしましょう」

「馬鹿な事を言うな。聖女様を危険に晒すつもりか。遠回りでも平野を通って行くべきだ」


 と、思っていたら二人の間で意見が割れる。そのアコーズ洞穴とやらがどれだけ危険なのかは知らないので俺はなんとも言えない。


「そんなのろのろしていたら魔王の被害に遭う所が増えるだけでしょ」

「しかし、聖女様を危険に晒すのは……」


 どうやら纏まりそうにない。俺は口を開いた。


「エリア。私は構いません。そちらの方が近道というのならその道を進むべきでしょう」

「聖女様……」

「決まりね!」


 俺の言葉に黙するエリアと我が意を得たりと頷くリスティ。その洞穴とやらを通ってベイルの町とやらに行ってやろうではないか。俺はそのつもりだった。


「私もそれで異論はありません」


 クーも頷く。それならばアコーズ洞穴とやらを通る事で決定だ。


「それじゃあ、早速、行くわよ。野営する事になるけど夜になるまでにアコーズ洞穴近くに付けて、そこで一夜を明かしましょう」

「聖女様に野営とは……」

「エリア、私は構いません。旅立つと決めた時から覚悟しておりました」


 そうは言いつつ、現代人の俺に野営の経験なんてないんだけどな。キャンプとかにも行った事はないし。やっぱり色々と面倒なものなんだろうな。

 これからの方針はとりあえず決まり、俺たちはサーウの町から旅立とうとしていた。

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