第7話お風呂の時間
そして風呂の時間がやって来る。俺はエリアの手助けも借りて、鎧を解き、全裸になる。大きな胸が露わになり、股間には竿も玉袋も何もぶら下がってはいない。腰は大きくくびれ、尻も大きい。この聖女の全裸姿だけでも恥ずかしいのにエリアも鎧を解き、服を脱ぐ。胸は小さめでスレンダーな体形をしているようだ。もっともそちらの方が戦闘を行う上では都合がいいだろうけれど。
「? 聖女様、私の裸に何か?」
「い、いえっ、なんでもありません!」
慌てて目をそらす。いかんいかん。じっくり見てしまった。なるべく見てはいけないものを見ないようにしつつこの入浴の時間をやり過ごすのだ。そう思い風呂場に入る。かけ湯をして、湯舟に浸かる。ここはファンタジー世界とはいえ、お風呂のある社会で良かった。女性の全裸姿はアレだが、一日旅をして流した汗を綺麗にする事が出来る。お湯の感覚に表情も綻ぶ。
「気持ち良いですか、聖女様」
「ええ、貴方はどう、エリア?」
「私も気持ちいいですね」
エリアと一緒の湯舟に浸かりながら二人して、お湯のあたたかさを体感する。このまま湯舟に浸かるだけで上がれば色々な所を見たり触ったりせずに済むのだが、そういう訳にもいかないんだろうな、やっぱり。俺が湯舟から出て体を洗おうとするとエリアも湯舟から出て俺の体を洗う姿勢を見せた。
「いや、エリア。一人で洗えるので」
「そういう訳にはいきません」
エリアはそう言い、タオルに石鹸を付けるとそれで俺の体の各所をこする。肩や腕、背中はいいが胸や股間、尻をこすられると「あっ」と喚声が出てしまう。女性になった体を全裸の少女に洗ってもらう。それだけでとても罪深い事をしている気がする。いや、実際そうなのかもしれないが。エリアはそんな俺の気持ちにも気付かず律儀に体を洗ってくれる。丁寧な手つきが逆に興奮する。それをやっているエリアも全裸なのだ。エリアの見てはいけない所を見ないようにも気を付けないといけない。そんな事をやっていると体が変な方向を向くのだ。
「? 聖女様、どうかなされましたか?」
「い、いえ、なんでもありませんわ」
慌てて誤魔化し、引き続きエリアに体を洗ってもらう。最後に髪の毛にシャンプーを付けてもらい絹糸のような金髪をエリアが洗う。そして、洗面器でお湯を流し、俺の体を洗い終える。
「ありがとう、エリア」
恥ずかしい事しかなかったが、一応、礼は言っておかないとな。そう思いエリアに礼を言う。「いえ」とエリアは恐縮した。
「それでは聖女様は先にお上がりください。私は自分の体を洗いますので」
「え、ええ、そうさせてもらうわっ」
いかん、声が上擦ってしまった。とにかくこの場所から逃れられるのなら大歓迎であった。俺は扉を開けて脱衣所に出ると、
「あ、今出たんだ」
全裸のリスティと鉢合わせした。こちらはエリアと違って胸も尻もなかなか育っていて……って違う違う違う!
「あ、あ、あ……」
「どしたの、聖女様? 顔が赤いよ? のぼせた?」
「え、ええっ。ですので部屋で先に休んでおりますわっ」
なんとかそれだけを言い繕いさっさと服を着て、部屋に戻る。ふう。とんでもない時間だった。今後、風呂の時間が来る度にあんな事があるのか。
「聖女も楽じゃないな……」
こんな女性の体に転生してしまった時点で付き纏う問題であるのは分かっているが、恥ずかしさが消える日が来るのだろうか。それはそれで嫌だな。部屋でくつろいでいるとエリアが上がって来た。風呂上がりの少女は色っぽい雰囲気を纏っている。ちなみに部屋は聖女様は個室で、とエリアは主張したのだが、流石にそれはあまりに非効率的過ぎるのと護衛の問題もあるでしょう、と俺が言い、三人で一部屋を取る事になっている。
「聖女様、私の顔に何か付いていますか?」
「い、いえ、なんでもないわっ」
お風呂上がりの姿が色っぽくて見とれていたなんて言えない。俺は誤魔化し、ベッドで横になる。ブルン、と大きな胸が揺れる。何をするにしてもこの巨大な二つの胸は邪魔だ。世の中の巨乳と呼ばれる女性たちはこんな不便と戦っていたんだな、と思わされる。
そう思っているとリスティも風呂から上がって部屋に入って来た。エリアが咎めるような視線を向ける。
「リスティ、早いですよ。ちゃんと体洗ったんですか?」
「勿論よ。あんたみたいな貧乳と違って巨乳は洗うのが大変なんだから」
「なっ!」
貧乳と言われエリアが顔をカッと赤くする。そして、リスティはなんと俺にも話を振って来た。
「聖女様ならこの苦労、分かるわよね。私以上の巨乳なんだから」
「そ、それは……その……」
確かに巨乳の苦労というヤツをこの体になってからしみじみと体感させられている身であるが。ここでそれを肯定するのもどうかと思った。
「ふ、ふしだらですよ、リスティ」
「えー、女同士の本音トークをしてるだけじゃない。ここに男はいないんだし、遠慮する必要は全くないわ」
いや、いる。しっかり男はいるから。そう思うも言葉に出せない悲しさ。
「とにかくさっさと眠ってしまいましょう! 明日も旅は続くのですから!」
「聖女様の言う通りですね」
俺の言葉にエリアが同意する。リスティは不満そうだったが、自分のベッドに入るとランプの灯りを消す。薄闇が部屋の中を覆い隠し、眠気が押し寄せてくる。とりあえず安眠は出来そう、かな。そう思っている内に俺の意識は夢の中に落ちて行った。
そして翌朝。宿を出てサーウの町を少し見て回る事になった。魔王の根城を突き止めて魔王を討伐する旅をしている身としては寄り道だが、寝床だけ見て出て行くのも味気ない。そう思いながら町中を見て回っていると一人の幼い少女に話しかけられた。ショートソードを持っていて軽鎧をしているが、リスティやエリアより年の頃は下だろう。その少女は口を開く。
「貴方たちは聖女様ご一行ですね?」
いきなり核心を突く言葉にドキリとする。エリアが警戒した様子で少女を見る。少女の外見だからといって油断出来ない。なにせ魔王がアレだったのだ。
「どうしてそれを」
「纏っている聖なる気で分かります。貴方が聖女様ですね」
その少女は俺を見て言う。大当たりだ。この少女もまた特殊な能力を身に付けているのか?
突如、現れた少女を前に俺たちは警戒した姿勢で対応するのであった。
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