第11話鍛錬開始


 朝、起きて食堂で軽い朝食を食べて準備を整える。ベイルロディア山脈とやらに出向いて鍛錬を行い、魔王を倒せるだけの力を付ける。そのために出発するのだ。


「しかし、ドラゴンのいる山脈と言いますが、いきなりドラゴンと戦うのですか? それは少し無謀では?」


 俺は気になっていた事を訊ねる。ドラゴンと戦うのはいい鍛錬になるだろうが、俺は神の御加護があるからドラゴン相手でも戦えるかもしれないが、他三人には厳しいだろう。そう思っての言葉だったのだが。


「聖女様。ベイルロディア山脈といえど奥地まで入らなければ凶暴なドラゴンは出て来ません。入り口付近で出るのは下級のレッサー・ドラゴンかレッサー・ワイバーン程度でしょう。まずはそれらから相手にしていって地力を付けます」

「なるほど……」


 いきなり巨大なドラゴンに挑みかかる程、無茶な真似をする訳ではないのか。まずは下級のドラゴンから相手していって、実力を付けようという事か。


「本音を言えばもっといい武器も欲しいんだけどね。いくら力量が上がっても武器が量販品じゃドラゴンの鱗を貫くのは難しいわ」


 リスティがそう言って愚痴をこぼす。彼女の片刃剣もそれなりの名剣だと思うが、ドラゴンを相手にするにはやはり不足か。それはクーの剣にも言える事だ。


「そうですね。この町にいる刀鍛冶に話を付けて、逸品を作っておいてもらいましょう。魔王討伐なのですからそれくらいは必要です」

「ホント!? よろしく頼むわね、エリア」

「エリアさん、お願いします」


 エリアの提案にもろ手を挙げて喜ぶリスティとクー。戦う以上、武器も重要な要素であるのだからそこに力を入れるのは当然か。そんなやり取りをしながらまずはベイルロディア山脈に行ってみようと言う事でベイルの町を立ち、山脈を目指す。ベイルロディア山脈はベイルの町からそう離れてはいない位置に存在していた。そこに踏み入ると早速、ドラゴンの襲来だ。レッサー・ドラゴンというヤツだろうか。羽根は退化し、地面を這いずる、見るからに威厳のないドラゴンが無数に現れる。


「これがレッサー・ドラゴンですか?」

「そうですね、聖女様。これくらいは倒せないと話になりません」


 エリアはそう言い、槍を構える。リスティも片刃剣を抜き放ち、クーも剣を構える。レッサー・ドラゴンが襲い掛かって来たが、それをエリアは槍で迎撃する。レッサー・ドラゴンは火を噴く能力も失われているようだ。牙と爪で攻撃して来るが、それくらいの攻撃を凌げないエリアではない。軽々と槍で凌ぎ、反撃の突きを繰り出し、レッサー・ドラゴンの体を貫く。


「この程度に苦戦してはいられないわね!」


 リスティもそう言って片刃剣でレッサー・ドラゴンを斬り付けていく。鱗の強度も本家本元のドラゴンに比べれば大きく劣るようであった。エリアの槍やリスティの片刃剣での刃が通り、その肌を切り裂いていく。その勢いで襲い掛かって来たレッサー・ドラゴンたちを全滅させる。俺が出るまでもなかった。辺りにはレッサー・ドラゴンの死体が転がり、この程度で苦戦するリスティでもエリアでもクーでもないようだった。


「あんまり鍛錬になったとは思いませんが……」


 不満足そうにクーがそう言う。実際、レッサー・ドラゴンは弱く、あまり鍛えられたとは思えない。それでもやらないよりはいいだろうが。


「とりあえず一歩ずつです。今の私たちでは大物のドラゴンの相手は務まらないでしょう。レッサー・ドラゴンから相手していかなければ」


 エリアは槍を構えたまま、もう少し先まで進むつもりのようだった。あまり奥に深入りすると大物のドラゴンとやらに遭遇するのではと危惧するが、こんな入り口付近ではそこまで強いドラゴンが出てこないのも事実。そうしていると羽ばたきの音が。ワイバーン? いや、それより下位種のレッサー・ワイバーンか。

 リスティもクーも剣を構え、迎撃の姿勢を取る。レッサー・ワイバーンは空から襲って来る分、先ほどのレッサー・ドラゴン程、楽な相手ではないだろう。あちらがこちらに攻撃するために急降下して来た隙を狙ってエリアたちは攻撃を繰り出す。エリアの槍がレッサー・ワイバーンの翼を貫き、墜落させる。リスティとクーもレッサー・ワイバーンに剣で斬り付ける。狙うは羽根だ。羽根を傷付ければ空を飛べなくなる。空から攻撃を仕掛けて来るレッサー・ワイバーンに三人は柔軟に対応し、槍と剣で応戦する。そうしてレッサー・ワイバーンも倒し、辺りには静寂が帰って来る。


「とりあえずは及第点、ですか」


 槍を背中にかけ直し、エリアが言う。レッサー・ドラゴンとレッサー・ワイバーン程度に苦戦しているようではこれから先が思いやられるという事だろう。この下位のドラゴン二種を楽に倒せる三人の力量を心強く思う。


「皆さん、お見事です」


 思わず称賛の言葉が出る。リスティは笑みを浮かべた。


「ま、これくらいはね」

「リスティ、あまり調子に乗らないように。私たちが倒したのはドラゴンの中でも最下級のものに過ぎません」

「分かっているわよ、エリア。この調子でどんどんやっていこうじゃないの」


 そうは言ってもリスティは少し調子に乗っている所があるようであった。まぁ、それに見合う力量の持ち主だとは思うが。

 それからもしばらくはベイルロディア山脈の入り口付近を散策し、出て来るレッサー・ドラゴンやレッサー・ワイバーンを退治していく。このレベルの魔物にはみんな苦戦などしないようであった。次々に倒し、日も暮れて来た所でベイルの町に戻り、宿に帰還する。


「とりあえず初日としちゃあ、いい感じじゃない?」


 リスティが笑みを浮かべてそう言う。一日目の鍛錬としては充分か。俺もそう思った。とりあえず格下のレッサー・ドラゴンとレッサー・ワイバーンを蹴散らし、腕鳴らしにはなっただろう。しかし、明日からはもっと引き上げていかなければとも思う。


「……ですが、あの程度の魔物と戦っていても実力の向上には繋がりません」

「聖女様は手厳しいわねぇ」

「だが、事実だ。聖女様の言う通りレッサー種ばかりを倒していても鍛錬にはならないだろう」


 苦笑いしたリスティにエリアも俺の言葉に同意してくれる。とりあえずもう少し上のランクの敵と戦わなければ実力の向上は見込めないだろう。


「明日からはもうちょっと高位の敵を相手にするようにしましょう」


 クーが言う。その通りだろう。そうしなければ魔王に対抗するだけの力など身に付かない。


「ま、それもそうね。雑魚ばっか狩ってたって、大して強くはなれないし」


 唇を尖らせながらもリスティもそう言って賛同する。

 この面子で魔王討伐を果たすのだ。そのためには鍛錬を重ねて魔王にも対抗出来るだけの力を付ける必要がある。そのためのベイルロディア山脈での鍛錬なのだから。

 とりあえず夕食を摂り、今日も風呂で恥辱の時間を過ごし、それが終わったので部屋に戻り、みんなして眠る事にする。

 果たしてこの面子で魔王は倒せるのか。そう考えだすと気になるものだが、着実に鍛錬を重ねて行けば届かない相手でもないだろうとも思う。

 今でも俺なら神の加護でそれなりに互角に戦えているのだ。他の三人も鍛えれば戦えないはずはない。

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