第二話:軍師とは
砦を出て、後方にある本陣にたどり着く。
瑞石は、数刻の足止めを受けた後、ようやく許しを得て朧月秀との対面が叶った。
「何の用だ?」
剣呑な顔つきで弟弟子を迎え入れた朧は、酒気はない代わりに機嫌が悪かった。
瑞石は身ごとぶつかるように尋ねた。
「御坂宮様の後詰めの件、まことですか?」
と尋ねた。
いつもは隠者の如く控えめな後輩が珍しく積極的であったのには、朧も少し意外であったようだ。
だが、すぐ鬱陶しさと険しさがその顔に戻ってくる。
「あいさつもなしにいきなりか……はっ!
決してそう言った悪意があって前置きを省いたわけではない。
が、抗弁しても時間が余計にかかるだけで友好な関係を再構築できるわけでもない。
故に瑞石は従容として頭を垂れ、答えを待つほかなかった。
ふん、と兄弟子が鼻を鳴らす。
「確かに。天童公を通じ俺が献策した。勝利を決定的とするため。こちらの消耗こそが唯一の勝ち目と思うておる敵の、甘い夢を断つために」
「何故海路で? 多少時間はかかるとも、北に迂回すれば良いではありませぬか」
「それでは時間がかかり過ぎる。既に制海権は赤池が確保した。それとも何か? 貴様、賊軍が兵を割き、宮様の別働隊を奇襲するとでも言うのか?」
「あるいは」
静かにそう答えた瑞石を、朧は腹底より笑い飛ばした。
「瑞石よう! 皆にもてはやされるうちにどうやら智慧も陰ったようだなぁ! 良いか!? 宮様が率いられるのは一万の大軍だぞ!? 前線を支えるのでやっとな鐘山方に、それを打ち倒すだけの兵力が捻出できるか!? また、仮にそんな軍を編成できたとして、海上を封鎖する赤池水軍が見逃すわけがないだろう?」
「それでも確実にないとは言い切れますまい」
「慎重だな。いやこの場合臆病と言うべきか」
そう言ってせせら笑う朧対し、
「まったくその通りです」
瑞石は、素直にそれを認めた。
「それが、軍師の資質と心得ております故」
渋面を作る兄弟子に、瑞石はさらに言い募る。
「天候、武運を占う者らを軍師としていた頃ならいざ知らず……軍師とは勝利に沸き立つ軍中においては、一人陰々滅々と思案顔にて次の一手を読むもの。私はそう思っております」
カッと怒色を露わにした朧は、腕を伸ばして瑞石の羽織をねじり上げた。
「……おおかた笹ヶ岳の一件は貴様の献策だろうが、たかだか一砦を奪ったぐらいでいい気になるなよ? 俺は貴様のような小功では満足しない……あらゆる手を尽くしてようやく帝にお目見えできるぐらいまでのぼり詰めたんだ……! 何を企んでくだらぬ制止をするかはしらんが、貴様がもてはやされる時代は終わったんだよ!」
「そのようなことは、決して」
「宗円は俺が討ち取ってやる! 禁軍などに邪魔などさせてたまるか!」
なお食い下がろうとする瑞石を突き飛ばし、朧は外に控えさせていた陪臣を招き、怒声を浴びせた。
「こいつを縛って動けぬようにしておけ!」
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