第四話:二人だけの軍議

 鬱蒼とした森林。頭上の山砦から吹きすさぶ風の下にあって、信守は血臭を嗅いだ。

 地を這う骸を見下した。手指を伸ばす彼らは命が絶える間際に何を想ったのか。


 彼らが死ぬところを見た。綱房の下手なる戦ぶりを見た。いや、そもそもあれは用兵などとは言えるまい。

 ただあの愚か者は理性を消し飛ばして勝利だの攻落などを追い求めた。その眼中や頭に忠義はあれども人や兵などなかったに違いない。


 そして骸を作りし大鎧の敵を見た。

 同伴する我聞いわく、あれは饗庭あいば宗忠むねただであろうという。

 信守と同じ年頃でありながらすでに海賊討伐などで武勲を立てた若武者で、その功名をもって宗の一字を宗円から拝領した。

 威風堂々といった調子のかの将が、いつも率先して敗勢の掃討に出た。


「距離が伸びている」

 死体の列を数えながら、信守は呟いた。

「追撃の……でございますか。たしかに、下手を打てばこのまま崩れる恐れも出てまいりました」

 それをおのれへの意見と捉えたのだろう。我聞はそう物憂げに答えた。


「さぁ、若。ここも危のうございます。敵の斥候が出る前に、離れねば」


 そう具申する我聞に同意したわけではなかったが、立ち上がった。

 信守は追憶する。

 敗走する味方を。我が武を恃みとしてそれを猛追する騎馬武者数騎を。

 そして退き太鼓が砦より戦場に響き渡り、それを忌々しげに振り返った宗忠の姿を。

 かの武者の名は鐘山宗円より賜ったものだ。宗善の『宗』ではない。


「策としては安直だが、やり方であろうよ」

 自嘲気味にそう呟いた信守に、家宰は怪訝そうな目を注いだ。

 その我聞へ振り返ることなく、帰途に就く。歩きながらも、命じる。


「我聞、お前と、お前の手勢を借りるぞ」

「は?」

「あと、第六軍の旗印が欲しい。綱房殿に頼め。首を振らなければ道々で回収すれば良い。それと、鉄砲。都合がつくだけかき集めろ」

「て、鉄砲でございますか? しかし」


 初陣を控えた若武者は勇むでもなく、怯んだわけでもなく、狂を発したわけでもなく、ただ淡々と。

 涼やかさを超えて冷たささえ感じさせる瞳を細めて我聞を顧みた。


「砦を落とす」

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