第12話 だって、私たちは変異人類だもん
こいつらの
「黙っておもちゃになっとけよコラァ!」
……妙だ。坂邊の動きがあまりスローに見えない。いつもなら、回り込めるくらいの動体視力を得ることが出来る。雪常の時がいい例だ。あいつなんて、俺が動いたことにも気が付いていなかったのに。
ガード、させられるだって?
「グ……っ?」
「おいおいどうした?このまま燃やしちまうぞォ?」
それを避けようと屈んだ瞬間、今度は横から腹にサッカーボールキックを見舞われて俺は吹き飛んだ。こいつは、速度を上げる技能か。
更に、炎と氷の礫が俺に迫る。顔面を覆って防いだが、二つの熱が俺の体に直撃して急速的な変化によって肉体を腐らせた。このままじゃ、腕が削げ落ちちまう。
チクショウ、嵌められた。こういうの信じちまうクセ、ホント直した方がいいよな~。
「いってぇ……。なぁ、お前、童貞か?」
ホスト風の男に訊く。
「なにワケわかんねぇこと言ってんだよ。んなモン、この状況見りゃそんなワケねぇって分かるだろうが」
言って、両手に抱いている女の胸を揉み上げて下品なキスを見せつけた。どうやら、俺の考察は当たっていたようだ。
「チクショー。てめぇ、ボスヅラしておきながら実は弱ぇな?いってぇ、クソがよ〜」
「……なに?」
「弱ぇっつったんだよ。無駄にイキってっから、勘違いしてダメージくらっちまったじゃねぇか」
「よそ見してるんじゃないぞ!【クローブヒッチ・キラー】ッ!」
言って、金色でショートカットの女が俺にロープを引っかけた。まるで生きているかのように首に纏わりつき、俺の首を締め上げる。
こいつ、強いぞ。
「なら、お前だ」
その女にヒートの対象を移して、ロープに絞められたままダッシュでホスト風の男の元へ駆けよった。どうせ、息は吸えないから変わらねぇ。残り時間は、20秒ってところか。
「な……ッ!?」
「下らねえハッタリかましやがって。最後にブチのめすって言ったが、あれは嘘になったぜッ!」
「ゴェ……!?」
顔面に2発、腹に2発。蹴りを叩き込んでやる。すると、ヤツは歯を吹き飛ばして気を失い、胃液をぶちまけてから白目になった。これは全部、累木と教科書の分だ。
更に、隣に座っていた女の顔面を踏みつけて潰し跳躍。ここを覆っている木を蹴ってブチ折ると、その太い枝を蹴り飛ばして坂邊と大路の肩に突き刺した。
「いっ……!?お、お前」
「喋ってる暇はねぇよ」
そして、残っていた三人に向けて地面を蹴り上げ土の塊を見舞う。視界を奪われた瞬間にシャツを脱いで、それを男の首に巻き付けてから投げ飛ばしてもう一人の女もノックダウン。だが。
「……っぷはぁーーッ!やっべ、一分経った」
「死ねェ!負け犬がァ!!」
ヒートを仕掛けていた女が、再びロープを締め上げる。しかし、その瞬間。
「【パルプ・フィクション】。あなたは、そこから動けない」
累木はペンを持って呟いた。
「サンキュ」
ゴスっ。裏蹴りが腹にめり込んで、女は前のめりに倒れた。よっし、勝った。
「……ふぅ。なんだよ、累木。お前、凄そうな技能持ってるじゃんか」
「彼女の人生のこの瞬間に、文章を書き込んだの。一種の催眠系の技能なんだ」
言って、累木はペンをクルっと回した。
「でもね、一度に一つの文章しか書き込めないから。さっきみたいな場面だと何も出来ないんだよ」
「『死ぬ』とか『裏切る』とか、ボスに書き込めばよかったじゃねぇか」
「あたしのパラノイアじゃ、そこまで影響力のあるのは無理」
なるほど、
「まぁ、いいや。おい、お前」
言って、最後に蹴りを入れた女の頭上に立って、声を掛けた。
「な、なんだよぉ……」
「この中で、お前が一番強ぇぞ。だから、もしあいつが下らねぇコトやり出したら止めろ」
「き、聞くワケないだろ、バーカ。お、お前、絶対に許さないからな」
「……救えねぇなぁ」
そして、俺と累木はその場から離れた。
「僕は
遠吠えを聞き流して、外へ。
「絶対に復讐するからなーッ!」
……まぁ、とりあえずここにドクターを呼んでやらないとな。
「さっきまで自分が危険だったのに、そんなことまでしてあげるの?」
「仕方ねぇだろ。少し、やりすぎたからな」
「……ふふ」
「何が可笑しいんだよ」
「いや、ホント変異人類っぽくないなぁって」
言うと、累木はハンカチを俺の腕の傷に巻いた。
「気がついてる?さっきも、みんな自分が目立ちたくて仕方なくて、だから協力しないで、それで一人ずつやられたんだよ。せっかく、たくさんいたのにさ」
実際、俺の弱点がモロに露呈してたしな。もし開幕に隈乃見の能力で縛られてリンチくらってれば、フツーにヤバかっただろうし。
「その理由、わかるかな?」
「さぁ、言うほど本気じゃなかったんだろ」
しかし、それは違うと言わんばかりに、頭を横に振る。
「うぅん。自分が一番だって、小戌君に認めさせたかったの。力を見せつけて優位に立てば、怖いって思ってもらえるでしょ?怖いって思わせれば、自分のことを絶対に無視できなくなるって考えるでしょ?だから、みんな寂しさを紛らわせるために、こうやって誰かをいじめたりするんだと思うな」
「全然分かんねぇや。つーか、そんなことしなくても他に方法はあるだろ」
「仕方ないよ。だって、私たちは変異人類だもん。普通の人には、ずっと避けられて生きてきたんだよ?ずっと、恐がられて、不気味がられて、仲間外れにされて。それでも誰かに構って欲しかったら、悪い事をするしかなくなっちゃうから」
言って、累木は寂しそうな表情を浮かべた。きっと、彼女自身に何か思い当たる節があるのだろう。
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