昔の夢②

 × × ×


――夢。


 必死に抵抗しようにも、痛む腕のせいでマトモに防ぐ事が出来なかった。そもそも、男の体重があまりにも重たくて、だからまだ五つにもなっていなかった俺が跳ね除ける事なんて絶対に出来っこなかったんだ。


「ボク?おじさんの為に、もっと泣いてくれないか?どこが痛い?ここ?ここかな?」

「い……っ!!ぎゃああああぁぁぁぁぁあああ!!」


 男は、俺の肩を掴んで鎖骨を折った。今だから分かるけど、あの異常な握力があいつの変異技能だったんだと思う。

 そして、ポキっという脳内に響いた乾いた音は今でも忘れることが出来ない。ちょっとした、トラウマってヤツさ。


「誰か!助けて!助けてよ!だれかあああああ!」

「うぇへへ、レロレロレロ。ボク、おいしいよ。もっと泣いてごらん?ほら、今度はこっちが痛いんじゃないかな?」


 言って、更に顔中を舐め回してから俺の肋骨辺りを鷲掴みにすると、再びポキポキと一本ずつたのしむように指に力を込めていった。


 俺はこの時、本当に死を実感したんだ。マジで人生が終わっちまうって、心の底から恐怖したんだ。


「どうして……。誰も、助けてくれない……」


 誰も、助けてくれない。人は、生きる時も死ぬ時もずっと一人なんだ。どれだけ願ったって、誰にも想いは届かないんだって。人生をどうにかするには、自分が強くならなきゃいけなかったんだって。身を以て、思い知ったよ。


 ……でもさ。それだけ絶望したってのに、どうしても生きる事を諦められなかったんだ。


「死にたく、ない」


 呟いた瞬間、男の体が不自然に浮かんだ。それは、文字通りケツの穴に突っ込まれる痛みを堪える為に息を止めて、身をよじった時だった。

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