下腹に刻む服従のハートマーク

 シエラの布服は、包帯みたいな形状だ。


 それを首から前に持ってきて、交差し胸を隠す。

 布は脇腹を通って後ろへ回ると、へそで一回転。

 縦にぐるっと尻から股間まで覆ったのち、へそに巻かれた布の下を潜って二つに分かれ、むっちりした両の太ももに巻きついていく。

 布の末端は足首、か。


「よくそんな格好ができるな」


「じろじろ見ないでくださいっ! 変態!」


「客観的に見てみろ。おまえ以上の変態は、そうはいない」


 なにせ、肩も腋もへそも尻もほぼ丸出しなのだ。

 どんなセンスだ。

 もしくは芸術家にでも批評させれば、前衛的だと評価されるのか?


 ベッドで覆い被さった状態で、真上からまじまじ眺めていると、涙目のシエラは赤くなった顔を横にそらした。


「だって……アタシの趣味とかじゃ、ないです」


「ふむ。あとおまえ、もの凄く甘ったるい匂いがするぞいつも。それはなんだ?」


「か、嗅がないでください!? ただの香水です!」


「嗅ぐつもりがなくても、勝手に鼻に入ってくるんだよ。なるほど、汗のせいで香の匂いが増しているわけか」


「なんなんですか!? もう離してくださいっ! 大声出しちゃいますからっ!!」


「もう大声出してるだろうが。わかったわかった、じゃあすぐに始めるとする」


 後ろ手に縛ってあるので、シエラはずりずり這って逃れようとする。

 おかげで、下腹がちょうど顔の前にきた。


「そこで動くな」


「お、お願いしますやめてください。あ、アタシまだ処女なんです。だからお願いなんでもしますから」


「知らんよ。なんの関係がある」


 しかしニィナといい、腹が最初から見えてる格好なのは助かるな。


 心身呪縛の紋様。

 図の形はしっかり頭に入っている。


 シエラは怖がってるくせに頭を持ち上げ、オレの指が腹に下書きを描く様子をハァハァ言いながら見ている。


「あ、あ……触らないで、ください」


「では、本番だ」


 シエラの白い肌がぷつぷつと粟立った。

 身をよじって動くので、くびれた腰を片手でがっちりホールドし、魔力を込めた指を下腹にあてる。


「ひっ……!?」


「すぐに終わるから我慢しろ」


 緊張と弛緩を繰り返し、ぶるぶる震えるシエラの腹筋。

 そこに大きくハートの紋様を描いていく。


「ふ……っ、ふ……っ」


 両手で口を塞いで、シエラは声を押し殺しているようだ。

 騒がれるより集中しやすくていい。


「いい心がけだ。偉いぞシエラ」


 まるで返事をするように、腰がピクンと跳ねた。


 中央のハートを描き終わり、続いて左右に伸びる蔓を描いていく。

 この頃からシエラの肌は紅潮し、さらに汗を滲み出させる。


「~~……っ!」


「もう少しだからな。頑張れよ」


 また腰が跳ねる。


 蔓の次に小さなハートを二つ描いていく。

 じわじわと浮いてきた玉の汗が、斜面を流れ落ちてへそに溜まっていくので、指でくぼみを拭き取ってやる。


「ふっ、ふ……~~っ!」


 シエラの顎が跳ね、背中が思いきりのけ反った。


「よしよし、これで最後だ」


 中央の大きなハートと、左右の小さなハートを蔓で結び合わせ、図形が完成する。

 あとはこれに全魔力を込めていく。


「いくぞ――」


「――――……~~~~ッッ!!!?」


 シエラの両足がシーツを巻き込んでピンと張る。


 オレは魔力の放出を終えると、派手に浮いた腰を抱え、シエラをそっとシーツに横たえた。




「ハァ……ハァ……ハァ」


 ベッドに横たわったシエラは、放心して天井を眺めている。

 下腹には、しっかり刻まれた呪縛の紋様。


「泣いてるのか?」


「泣い……て、ない、です……」


「そうか。さっそくだが命じる、今後オレの命なくこの家を出ることは許さん」


「は? なにを、言って」


「オレの命にはすべて“はい”と答えろ」


「だから、なにを――えっ!? あっあ……!? はぐぅ――……~~ッ!!」


 下腹に刻んだ紋様が微かな光を発し、それを押さえて悶え苦しむシエラ。

 尋常じゃない量の発汗だ。


 なるほど、これが反抗した場合の抑制効果か。

 見た感じ“痛み”だろうか?

 苦しんでいるし、きっとそうだろうな。


「ふっ! ふうっ! な、なんですかこれ!? アタシの体に、何したんですか!? エイザークっ!」


「呼び捨てはだめだな。……そうだな、今後オレのことは“師匠”と呼べ。これまで弟子など取ったことないんだぞ? 嬉しいだろう」


「ふざけん……――あッ!? ぐ、う~~~~ッ!?」


 腕で口を押さえ、シーツにギュッと爪を立てて、シエラはのたうつ。


 こいつ、声を出すのを異様に嫌がるんだな。


「シエラ、今の場合の返事は“はい、師匠”だ。わかったか?」


「ハァ……っ、ハァ……っ、は……はぃぃ……し、師匠……」


 呆然自失に答えるシエラ。

 目尻からは涙がこぼれている。


 まあ、今日はこんなところでいいだろう。

 さすがにオレも疲れきっている。


「オレはもう寝る。おまえもリビングを片付けたら休んでいいぞ。いいな?」


「……は……はぃ……師匠……ッ」


 声にはありありと嫌悪が混じっていた。


 それはそうだろうな、別に気にもしないが。


 フラフラと寝室から出ていくシエラを見送って、オレはベッドに転がった。

 シエラの汗と体温を含んだ甘ったるいシーツに顔をしかめるが、眠気には勝てない。


「さて……どう矯正したものかな」


 明日からの予定を考えようとするも、すでに限界がきていたのか、あっという間に眠りへ落ちた。

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