第59話 専守防衛の本懐(3/3)
(後は我々の国産兵器がどこまで通用するかだ!)
ここまでやって、ようやく自衛隊はアメリカ海軍という永世横綱と同じ土俵にあがれるのだ。
2020年代の戦いとは違う。
敵は慢心と歪みの中にあった旧韓国海軍ではない。
世界最強を誇るアメリカ海軍の核融合・原子力空母総計3隻を基幹とした上陸艦隊が相手である。
大量の有人・無人艦載機にくわえて、護衛のイージス艦だけでも実に12隻に達し、対潜哨戒にあたる汎用フリゲートや強襲揚陸艦の戦力まで加えれば、その防空能力は対馬沖海戦の10倍近いと計算される。
「いけると思うか、副長」
『個人的な感想を言わせてもらえるのであれば、これでも通用しないかもしれないと考えています。
……それが我々があの戦い以来、ずっと手本にしてきた米海軍というものかと』
「はっ、弱気だな。だが、半分くらいは同感だ」
第1波、瀬戸内海に集結した連合艦隊および航空機戦力による長距離ミサイル総計800発。
第2波、日本海のF-3から発射された空対艦誘導弾と、津軽地方に潜伏した陸上自衛隊から発射される地対艦誘導弾、総計400発。
そのほとんどが超音速・超精密誘導のミサイルであり、威力は2010年代の数倍にも達する。
(そして、これがとどめだ!)
だが、自衛隊は最後のダメ押しを用意していた。
『内浦湾より多数のミサイル発射を確認! 潜水艦隊の水中型ハープーンです!』
『羊蹄山付近に潜伏した榴弾砲部隊、長距離砲撃を開始しました!』
『北海道新幹線、新小樽トンネルより30式戦車部隊砲撃を開始!』
『石狩湾無人水際陣地、
『無人自爆機部隊、突入開始しました!』
『朝里の無人自爆ボート、発進!』
すべてはただ一瞬のために。
同時着弾を狙って発射された1200発の対艦ミサイルのために。
危険極まりないほどの距離で潜伏し、そして遂に姿を現した戦車が、火砲が、対戦車ミサイルが。
体当たりプログラムを仕込まれた無人機とボートが。
一斉に小樽沖の上陸艦隊へ向かって突進する。
(当たるわけがない!)
無誘導の榴弾は時速50km以上で疾駆する海上目標にはまず当たらない。
戦車砲は水平線の向こうにいる脅威には対応していない。
高性能オートバイ用エンジンを転用した自爆ボートは時速70kmを超えた高速で波を切るだろうが、所詮は片手間に処理できる標的に過ぎない。
低速の多目的誘導弾は敵影すら見ることもなく叩き落とされるだろう。
無人機が亜音速にも満たない速度で突っ込んだところで何ができるというのか。
(だが……それでもだ!)
藤田艦長は思う。
この一瞬に、ほんのわずかでも敵上陸艦隊の対応能力を奪えるならば、命中しない砲弾やハンティングの練習にすぎない無人機と無人ボートにも意味があるのだ。
殺到するミサイルと砲弾、そして海と空の脅威は敵艦隊にとって3000にも達する飽和攻撃として認識されているはずだった。
さらに対馬沖海戦では十数分の間に繰り返す波として押し寄せた対艦ミサイルの豪雨は、今回わずか60秒の間に集中する設定となっている。
戦争において、一瞬にして刹那に過ぎない60秒。
その刹那に自衛隊は日本防衛のすべてを賭けたのだ。
『敵上陸艦隊、対空ミサイルおよび近接防空システムにて砲弾の迎撃を開始しています!』
『潜水艦隊のハープーン、敵直衛の迎撃により全滅!』
『陸自部隊に敵反撃が行われています! 潜伏型
『石狩湾へ多数のクラスター弾が着弾しました! 水際無人陣地、すべてステータス・ロスト!』
『第2波誘導弾群、まもなく小樽天狗山の影より海上へ抜けます!』
『第1波誘導弾群、積丹半島上空にて最終ダイヴかけました!』
歴史にとってあまりにも刹那。戦争の中ではわずかに一瞬。
そして、激動の渦中にある人間存在にとってもあっという間に通り過ぎてしまう60秒。
━━それを永遠の時間として認識できるものがあるとすれば。
億と兆をはるかに超えた処理速度を持つ人工知能だけだった。
60秒あれば宇宙創成から太陽が燃え尽きるほどの演算でも可能だった。
(我々
米国の誇る『ハイ・ハヴ』の主観時間である60秒!
これが最初で最後の勝負だ!!)
だが、運命は日本国に肩入れした。
国家戦略人工知能システム『ハイ・ハヴ』の処理能力は、この60秒間━━正確にはこの60秒を含む30分ほどの間、深刻なオーバーロードを起こしていたのだ。
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