第51話 35式個人用外骨格人工筋肉ユニット『ニンジャ2035』(1/2)
━━2036年4月27日午前4時35分(東京・日本標準時)
『あれはなんだ!』
『戦車か!?』
『ロボットか!?』
『怪物か!?』
『ヒトか!?』
「いや、違う……あれは……あれは……!!」
うっすらと煙る白いスモークの中、どんな近接防御兵器も射撃できない指呼の合間にその黒いニンジャ達は立っていた。
巨大な漆黒の着ぐるみに見えた外観は、いつの間にか大型リュックにも似た800リットル容積のバックパックを背負い肥大化している。
だが、それが外見的なバランスを失っていないのはそれぞれの片手に━━あるいは両手に2メートル、3メートル、甚だしくは5メートルにも達する巨大な『得物』を装備にしているからだった。
「パワードスーツだ……!!
あれは黒いパワードスーツ・ニンジャだ!」
『人工知能の
しかし、識別不能です! 敵のパワードスーツは『ハイ・ハヴ』のデータベースに照合なし!』
『くそったれめ、日本軍の新型兵器か!』
『全防御機銃、射撃不能! 近すぎて
『直衛のM4ボーリガード戦車も無人機も射撃不能です! 今、撃つと本艦に当たってしまいます!』
「奴ら……このためだけに……我が艦と護衛部隊が射撃できない超至近距離まで間合いを詰めるためだけに、すべてを組み立てていたんだ……!!」
その瞬間、ホルターマン大佐はすべてを理解した。
ここまで異常なほど日本軍が静かだった理由を悟った。
いきなり本土に奇襲上陸されて、対応できなかったわけではない。
狼狽して、抗戦と停戦の激論を戦わせていたわけでもない。
(奴らは最初からやるつもりだったんだ……!)
日本は戦うつもりだった。それも拳を大きく引き絞り、敵の先手を誘ってから強烈なカウンターを放つつもりでいた。
そのための準備を最初からブレずに行っていたのだ。
らしくない。この国らしくないと、ホルターマン大佐は思った。
同時に、老サムライが放つ居合いの一撃のようであり、あるいはニンジャ・マスターが絶好の刺客から投げつける手裏剣のようだとも考えた。
その二面性が違和感なく受け入れられること。
それ自体が日本という国、そして民族の特殊性なのだ。
(いや……今はそんなことを考えている時ではない!)
戦争と戦闘の次元を超えてホルターマン大佐の思考はまったく違う領域まで飛躍したが、指揮官としての義務感が己の果たすべき領域へと脳細胞を引き戻す。
目の前の脅威に対抗しなければならない。敵軍と戦わなければならない。
部下を、戦友たちを守らなければならない!
(そのために、今できることはなんだ!)
上陸部隊司令官としてオーバーレブで頭を回転させはじめた瞬間、凄まじい衝撃に体が揺すられた。
「うおおおおおおお!? な、なんだ、爆発か!?」
『敵パワードスーツが艦首ハッチに取り付いています!』
『何かを閉鎖ラッチ部分に当てて……うわっ!』
再び『マウンテン・デュー』のCICが、否、
同時にガツン! という巨大な金属音も響いてくる。
哨戒ドローンが捉えた映像が拡大された。
黒いパワードスーツ・ニンジャが2名、わずかな突起物しかない艦首上部に左手1本でぶら下がり、右腕の巨大な角柱らしき物体を閉鎖ラッチに押し当てている。
『うわあああああーっ!? ま、まただ!?』
『なんだこれは……巨人のハンマーでぶん殴っているような衝撃だぞ!』
『く、杭です! 敵パワードスーツは巨大な杭を打ち込んで衝撃を与えている模様! 艦首のハッチを破壊しようとしています!』
「
まさにそれは意味の通らない和製英語ならぬ『アニメ英語』でパイル・バンカーと呼ばれる兵器だった。
全長3メートルにも達するパイルユニットを右腕の人工筋肉ユニットと接合させた装備である。
超高強度材を使用した角柱の質量は実に数トン。
それが超加速されて叩きつけられる質量エネルギーは、戦車砲の射撃にも匹敵するというふざけた個人装備だった。
本来ならば、装甲車両が地面に
だが、ガソリンを食う人工筋肉ユニット『34式多燃料対応筋細胞装置』は人体の数十倍のパワーを持つ。ヒトがヒトであるゆえに本来、運用し得ない装備をヒトサイズで運用しえるのだ。
『艦首閉鎖ラッチに致命的問題発生!』
『ダメです、支えきれません! このままでは自重でハッチが開いてしまいます!』
「ば、バカな……ここで艦首が開いたら、艦内が丸見えになるぞ!」
『護衛部隊が指示を求めています!
国家戦略人工知能システム『ハイ・ハヴ』による判断は
「そうは言っても周囲からミサイルや砲を撃ち込んだら、こっちの乗員がやられる! ええい、だが丸腰の歩兵を突っ込ませるわけにも……!」
『艦上に取り付いた敵パワードスーツが機銃掃射を開始しました!』
5メートルほどもある射撃ユニットを右腕を差し込むようにしてマウントした第2中隊のノード17が、『34式大型携帯機関砲』こと30mmガトリング砲を発射したのだ。
『汎用戦闘車が次々と撃破されていきます! ボルトオン対空ミサイルシステム、壊滅! これは……大口径の機関砲弾です! 汎用戦闘車の装甲では防げません!』
「歩兵および汎用戦闘車は直ちに退避!
戦車、前へ! 盾となって護衛部隊を守れ!」
ホルターマン大佐が指示を飛ばす前に、護衛部隊のM4ボーリガード戦車は手動操作で機敏に動いていた。
彼らは30mmガトリング砲の掃射にわりこむようにしてその身をさらす。複合装甲が激しく被弾し、セラミックやチタン、カーボンの断片が飛び散った。センサーユニットがあっという間にダウンする。
(大丈夫だ! あのくらいで戦車はやられん!!)
アメリカ海兵隊は上陸戦闘が専門である。しかし、だからといって保有する機甲戦力が劣るかというと、まったくそんなことはない。
(上陸戦闘とは……敵海岸線の抵抗を完全に撃滅し、内陸まで進撃することまで成し遂げて、はじめて『上陸戦闘』と言う!)
歴史的に見てもアメリカ海兵隊はパットン戦車シリーズはもとより、大いなる主力戦車M1エイブラムスシリーズ、そして最新鋭M4ボーリガード戦車と陸軍と同じ最新装備を供給されている。
すなわち、アメリカ海兵隊とは水際でいきなり敵の機甲師団とぶつかっても正面撃破できる軍隊なのである。
『M4はやられっぱなしじゃないか! 120mm連装砲はどうした!!』
『くそっ、この艦がパワードスーツ・ニンジャに取り付かれているから撃てないんだ! 司令官、構いません、ぶっ放してもらいましょう!』
「先走ったことを言うな! 艦の要員が巻き込まれる!!
『敵パワードスーツが射撃停止! 弾切れのようです! やった!』
CICに歓声が満ちた。
カメラの捉えた映像を誰もが見つめる。盛大に広がった発射煙と完全に停止して水蒸気の揺らぎをあげるガトリング砲身、そしてさしたる動きも見せない敵のパワードスーツ・ニンジャが映っている。
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