誠、初めてお酒を試飲

酒蔵に案内された二人。杜氏の坂岡氏は、

「さっき、杉玉の事をお嬢さんから聞かれたと思うけど、この時期は、『新酒が出来ました』って知らせになるんだよ。だから、新緑の杉玉を吊ってあるんだよ。毎年、11月初めに、松尾様に『お搾り始めます』とお参りをしてから、仕込みが始まって。今の時期、3月から4月ぐらいに新酒ができるんだよ。」

「あっ!そうなんですか?冬が始まるぐらいからお酒づくりが始まるんですか?」

誠は杜氏の坂岡氏に聞いた。


「そうだよ。日本酒づくりに欠かせないお米が実ってからでないと、お酒が出来ないからね。お兄さん、お酒はよく飲むの?」

「いえ、お酒、全く飲めないです。」

「あらら!全く飲めないって?いい青年が意外だね。そうだ!後でお兄さんにも飲めるお酒を用意してあげるよ。」

その言葉に紀子は

「あっ!坂岡さん、あまり飲ませないで」とやや焦って言った。

「大丈夫だよ!お嬢さん、お兄さんにも飲めるお酒だから、俺が保証するよ」

・・・その後、杜氏の坂岡氏は、誠にお酒ができるまでの工程を説明していった。洗米・浸漬から蒸米・放冷へ、麴造り・酵母づくり・醪・仕込み等々、お酒を作る手順を説明していった。

「仕込みが終わったら、上層と言って、醪を絞って、お酒と酒粕に分けるんだよ。そして濾過や火入れを行って米の粒子や酵母の小さな固形物を取り除くんだ、さらに加熱処理で殺菌をして、ここにあるタンクに貯蔵しているんだよ。今ここに入っているのは、去年仕込んだお酒だけどね、約半年から1年貯蔵していいお酒になるんだよ。」

誠は、ややわかったような、わからなかったような感じで聞いていた。

「ハハハ。ちょっと難しかったかい?お酒づくりってのは、かなり根気がいる仕事なんだよ・・・さて!お兄さんにも飲めるお酒を用意してあげよう!ちょっと待っててな!」坂岡氏はそう言うと、事務所にてグラスに白っぽいお酒を注いで誠に手渡した。

「これなら飲めるかと思うよ。騙されたと思って飲んでみな」誠は、手渡された白っぽいお酒を見て

「これ、お酒ですか?なんか甘い香りが・・・カルピスみたいですが!」

「いいから、ゆっくり飲んでみな」誠は、チビチビと飲み始めた。

「あれ?カルピスですね!でも、お酒の感じも有ります!」

「ハハハ、酎ハイって言うんだよ。ほろ酔い気分が味わえるよ、これなら、お兄さんでも飲めるだろ!でも、気をつけてな!一応お酒だから、あまりがぶ飲みをしないようにな!ゆっくり飲んで味わうんだよ」

誠はややゆっくりと、グラスの酎ハイを飲み干した。

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