第26話 初めまして先輩!


 放課後の図書室、部活もまだ決められない俺はペンを握る。


「で、唯人は部活決めたの?」


  部活を何にしたとしても、結局自分の時間は吸われる。学校生活を満喫し、勉強もしっかりしたい。

 そして、正直なところ内申点も欲しい。


「麗華は決めたのか?」

「まだ。唯人が決めたら私も決めようかなって」

「なんでそうなるんだよ」

「別に? 唯人が決められないと私も決まらないの。早き決めてよ」


 部活なんて好きな部に入ればいいだろ? 何を躊躇しているんだ?


「……麗華さん」


 少し離れた所に槇原が座っている。本を逆さまに持ち、こっちをチラチラのぞき見していた。

 あれで隠れているつもりなのか? だとしたらバレバレだ。

 あの日から俺と少しは話すようになったが、いまいち俺は槇原を信用できていない。

 確かに俺よりも勉強はできるっぽいんですけどね。


「あれ、槇原君だよね?」

「丸見えだな」


 向かいに座っている圭介も気が付いたようだ。例の一件についてはそのままそっくりと圭介にも話をしてある。

 俺は小さな声で槇原にも聞こえるようにささやく。


「なんでそんなところにいるんだ?」

「見てわかるだろ? たまたま図書室で勉強を──」

「本をさかさまに持って?」

「そう。こうして視界に麗華さんを見ているだけで──」


 そこまで言うと麗華が席を立ち、槇原の隣まで歩み寄った。


「あのさ、迷惑なの」

「ごめん……」


 意外と素直な奴だな。


「そんなところでこそこそしないで、こっちに来なさい。一緒に勉強するわよ」

「いいのか?」

「私一人で二人を見るのが大変なの。槇原君、それなりに成績いんでしょ?」


 麗華は槇原の腕をつかみ、圭介の隣に座らせた。


「はい、じゃぁよろしくね。圭介、唯人。わからないことろ、時間がかかりそうなところがあったらすぐに教えて」

「「いえっさー」」

「俺が麗華さんと同じ机に……。やる、やるぞぉぉぉぉぉ!」


 槇原が一人ではしゃいでる。恐らく、このあとは──


「そこ、うるさいですよ。静かにしてください」

「「はい」」


 って、やっぱり怒られた。


「……昔を思い出した」

「そう、奇遇ね。私も思い出した」


 小学生の頃こうして麗華と二人で勉強していた時に、同じように騒いで怒られた。

 そして、図書室を追い出されたんだっけ。


「なぁ、圭介は部活決めたのか?」

「うーん、運動は苦手だから運動部以外で考えているよ」

「槇原は?」

「俺か? 俺は麗華さんと一緒の部活にした」

「え? 私まだ何も決めていないんだけど?」

「俺もまだですよ! 麗華さんが決めたらそこに入ります!」


 結局みんなどこにも決めてない。

 早いところ決めないと人気のあるところは定員に達してしまう。

 

 ん? そうか、人が少ない部活に入れば、ある意味活動しないで済むのか。

 バッグに入れてあった部活紹介の冊子を手に取り、ページをめくる。

 人が少なく、活動も少ない。でもって、できれば役職にすぐつけそうな……。

 一年で副部長とかだったら内申点も上がりますよね?

 見つけた。ここだったら行ける!


「俺、今から部活見てくる」


 机に広げていたノートや参考書をバッグに入れ、席を立つ。


「え? ちょっと今から行くの?」

「あぁ、多分そこにすると思う。じゃぁな」


  俺はみんなを残し、一人で図書室から出ていく。

 勉強する時間の確保、適度な休み。そして、活動には一応参加する。

 さらに内申点も上げ、自分の興味のある部活。


  ここしかないと思った。

 日もまだ高く外は明るい。だが、今何時ここは薄暗く、少しひんやりとしている。


──ガララララ


「すいません! 入部希望なんですけど!」


  返事がない。どうやら留守のようだ。

 閉まり切ったカーテン、暗い部屋。何かが漂っていそうな旧部室棟。

 廃部寸前で部員はたったの三人。でも、活動はしっかりしている、らしい。


「誰?」


  後ろから突然声がした。ゆっくりと振り返る。

 真っ黒な前髪が垂れ下がり、顔を完全に隠している。スカートをはいているから多分女子。

 恨めしそうに手を上げ始め、前髪を少しだけ分ける。

 のぞかせた不気味な瞳。まるで何かの怨念がこもっているかのような漆黒の瞳。


「で、でぇぇぇぇたぁぁぁぁぁ!」


 腹の底から叫び、俺は後退する。目を離せない、はなしたらきっと何かされるような気がした。


「出た? 何が?」


  前髪長い女はゆっくりと俺に歩み寄る。ゾンビのように、ゆっくりと。

 きっと俺はここまでだ。ごめんソフィー、最後にもう一度会いたかった。

 麗華も圭介もせっかく同じ学校に来たのに、悪かったな。

 父さん、母さん……。先立つ息子をお許しください。


「何を慌てているの?」

「な、何って……」


 目の前の女子は、俺の隣を通りすぎ閉まり切っていたカーテンを開ける。

 室内に日の光が差し込み、明るくなった。


「まぶしい……」


 彼女は髪を後ろに持っていき束ねる。

 さっきまで幽霊のようだった彼女は整った顔立ちを俺に見せた。

 白い肌には変わりない。不健康そうにも見える。

 そして、長い真っ黒な髪と大きな瞳。そして……。


「言いたいことはわかるけど、私はこれでも二年生なんですけど? あなた、一年生よね?」


 俺よりもかなり身長が低い。

 幽霊だと思った女の子は、かわいらしい先輩だった。

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