第25話 領域展開完了


「ただいまー」


 学校が終わり、帰宅する。放課後いろいろあったけど、何とかなりそうだ。

 自分の部屋に戻る途中、さりげなく食卓の上に留学系の資料を展開。

 白い封筒からほんの少しだけ中身を出し、見やすくしておく。

 ふっ、領域展開が終わった。


「母さん、部屋で勉強しているからごはんになったら呼んで」

「あら珍しい。どうしたの?」

「珍しくないし、ただの宿題だし。べつにいつもと変わらないし」


 机に向かって、ライトをつける。

 写真立てが視界に入り、俺は写真に視線を移す。


 写真立てに入った二枚の写真。

 一枚は俺とソフィーが二人で並んでいる花火大会の日のワンカット。

 もう一枚はプールで撮ってもらった俺たち四人が映った写真。

 俺と圭介、ソフィーに麗華。


 あの頃は何にも考えず、ただ毎日が楽しければいいと思っていた。

 でも、これからは違う。何かを得るためには努力をしなければならない。


「ソフィー、俺やれるだけやってみるよ」


 ノートを開き、参考書を開く。俺の胸に宿った炎はそう簡単には消えないぜ!


「唯人ー、ごはん! 今日はカレーよ!」

「……今行く!」


 食べ終わったらやるよ。うん、俺のやる気はなくなっていない。


 ※ ※ ※


「んー、今日のカレーもなかなか……」

「唯人、部活決めたのか?」

「んー、まだ。部活案内は今週。入部は来週かな?」

「何にするんだ?」

「全く決めてない」


 部活の話はあとでいい、それよりも留学の資料は見えてもらたのか?


「え、英会話クラブとかいいかもね」


 さりげなくアピールしてみる。


「英会話? 運動部にしたら? ほら、あんた足早いんだし、陸上部とか」

「陸上? やだよ、疲れるし。部活は適当に入るよ」


 父さんが手に持っているのは俺が持ち帰った資料。

 何の資料かはこっちからではわからないけど、興味を持ってもらえたようだ。


「……唯人、留学って興味あるのか?」


 きたー! そうです、そう! 本題はそこですよ!


「んー、少しはあるかな?」


 嘘です! 興味あるんです! 行きたいんですよ!


「こんなに留学系の資料があるってことは──」

「先生がみんなに渡したんだよ。国際文化交流に力を入れているんだって」


 はい、嘘です! その資料は俺がもらってきました!


「そうなのか……。これからの時代、必要になるのかもしれないな」

「そうねぇ、テイラーさんの事もそうだけど、国際社会になったら身近に海外の方も増えるわね」

「唯人はやりたいのか?」

「やりたい! ぜひやりたい!」

「そっか、お前がそういうなら、考えるよ。な、母さん」

「そうね、いい経験になるかもしれないわね」


  きたこれ。やったぜ。作戦大成功じゃないですか!

 あとは、いい成績とって、問題を起こさず内申点を上げれば……。

 内申点? 部活とか委員会やった方がいいんだよな?

 真面目に考えるか……。一年で部長とか副部長とか、生徒会役員とかになれば。

 いいね! やる気出てきた!


  俺はカレー皿を手に持ち、スプーンでカレーを口に運ぶ。

 だんだん目標が見えてきて、やることも見えてきた!


「んぐっ!」


 喉にカレーを詰まらせた。


「だ、大丈夫か! 母さん! み、水!」

「はいはい、そんなに慌てるからですよ」

「はひゅー、危ない。ありがと」

 

 頬に米粒とカレーを付けたまま、俺は真剣な目で遠くを見つめる。

ソフィー、俺は一歩前に進めそうだよ。


「唯人、口の周り拭いてから部屋に戻るのよ」

「はい」


 部屋に戻った俺は飾った写真を見ながら、今日の課題をこなす。

 まだ本格的に課題は出ていない。いまは復習が多い。

 さっき感じたが、父さんと母さんの反応は良い。

 あとは俺次第。やってやるぜ!

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