第19話 ごうかくおめでとう


 受験日当日。父さんに送られ、中学校まで来た。

 この日の為に先生や麗華にいろいろと助けてもらった。

 特に麗華のする面接の練習が厳しかったのは今でも記憶に新しい。


「終わるころに向かえくるから。がんばれー」

「わかった」


 ここまで来たらやるしかない。

 試験会場に入り、指定された机に座る。


「遅かったわね」

「まだ時間はあるだろ?」


 前の席に麗華がいる。


「僕たちだけみたいだね、ここ受験するの」


 後ろには圭介。


「学校ごとに席決まってるんだな」

「申し込み順なのかしらね」

「さぁ? そこまでは。唯人、どう? 緊張してない?」

「大丈夫。圭介は?」

「僕の場合は落ちてもいいから、気が楽だよ」

「圭介、あんたも受かりなさいよ」

「なんで?」

「あんたが受からないと私と唯人だけになるでしょ?」


 うちの学校からの受験者は三人。恐らく二百人はいる受験会場。

 その半数が合格する、はず。


「落ちたら落ちたでしょうがないさ。でも、高校受験をパスできるのはいいよねー」


 中高一貫教育。そして、留学制度、スーパーサイエンスハイスクール。

 俺は何として合格したい。どうしても、海外に行きたい……。

 そして、またソフィーに会いたい。


──キーンコーンカーンコーン 


「それでは試験始めます」


 俺の戦いが始まった……。


 ※ ※ ※


「ほら、早く準備して!」

「いや、こっちのネクタイが……」


 今日は中学の入学式。制服を身に着け、俺の準備は終わっている。


「父さん、早くしないと遅れる!」

「わかってる! ちょっと待ってろ!」


 やっとみんなの準備が終わり、入学式に向かった。


「いやー、唯人も中学生か。でっかくなったなー」


 父さんの運転する車に乗り込み、入学式の行われる中学校へ向かう。

 俺は背も伸びたし、体格もよくなった。

 勉強は相変わらずだけど、足はずいぶんと速くなって、小学校を卒業するころにはクラスでも一番になっていた。


「返事きたのか?」

「きたよ」

「なんて書いてあったんだ?」


 俺はバッグから一枚の封筒を取り出し、中身を取り出す。

 淡いピンク色の一枚の紙。あまりきれいな文字ではないけど、日本語で書かれていた。


『ごうかくおめでとう』


「なんも、ただ元気にしてるかって書いてあった」


 俺がソフィーに送るときは英語で。ソフィーが俺に送るときは日本語で。

 相変わらず引っ越しが多いようで、しばしば住所が変わる。

 と言っても数か月に一回のやり取りなんだけどね。


「元気そうだな」

「元気だよ。ソフィーもきっと頑張ってる」


 車の窓から流れる景色を眺め、この青い空の向こうに俺と同じようにソフィーが空を眺めているんじゃないかって思っていた。


 ※ ※ ※


「──であるからしてー。我が校の文化は今年も──」


 学校長の挨拶。そして、先生たちの挨拶が次々に始まる。

 中高一貫の入学式、生徒も多いが先生も多い。  


「唯人、寝てない?」

「寝るかっ」


 真新しいぶかぶかの制服に身を包み、先生のありがたい話を聞く。

 中学受験を見事突破し、麗華と圭介も俺と同じ中学校に進学した。

 体育館には中学と高校の新入生、それにその保護者。さらに先生方も並んでおり、体育館はぎゅうぎゅうだ。


 入学式も無事に終わり、一足先に教室へ戻る。この後は簡単なホームルームをして帰るだけだ。

 さすがに入学初日ってことで、教室内で騒いでいる生徒はいない。


「──だってさー」

「マジでー、そんな奴が入学してきたのか?」

「あぁ、ほらこのクラスにも一人だけいるだろ?」


 嫌でも耳に入ってくる声。気になってふと視線を向けると俺の方を見ている。

 なんだ、俺の事知っているのか?


「こっちみてるぜ?」

「気のせいだろ? ここは底辺学校じゃないんだ。あそこの学校、バカばっかりだろ? 絶対裏口入学だって」

「おいおい、声でかいって」

「別にいいだろ?」


 俺のことか? 確かに入学名簿を見ると俺以外の奴は何人か同じ小学校から来ているみたいだ。

 麗華も圭介も同じクラスにはならなかった。意図的に同じ学校から入学した生徒をバラバラにしたのか?


「おい、お前。そのバカってのは俺のことか?」


 席を立ち騒いでいる奴らに向かって歩み寄る。


「お? 聞こえちゃった? 悪いな、気にしないでくれ」

「もう一度聞く。そのバカってのは、俺がいた小学校のことか?」

「うるせーな。だから何なんだよ底辺」


 かちーん。確かに俺はそんなに頭は良くない。

 けどな、同じ学校から来た麗華をバカにされるのは腹が立つ。

 あいつはクラスでも学年でずっと一番だったんだ。塾だって行っていたし、俺に勉強も教えてくれたんだ。

 それを『あそこの学校、バカばっかりだろ?』って、何様のつもりだ!


「撤回しろ」

「やだね」


 教室内がざわつく。こんな大声で言い合っているのは俺とこいつだけだ。


「このぉ!」

「なんだやるのか!」


 先生も保護者もまだ来ない。クラスの中は先に戻った生徒だけ。

 ほとんどの生徒が初対面の中、突然乱闘騒ぎになった。


「取り消せっ! 麗華はバカじゃない! さっきのセリフ取り消せ!」

「このサルが! 口よりも先に手が出やがった! この低知能!」

「こんのやろーー!」

「ってーな!」


──ガララララ


「はーい、皆さんお待たせしま──」


 教室に先生が入ってきた。


「ちょ、ちょっと! そこ二人、何してるんですか! やめなさい!」



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