第14話 ソフィーの告白
「ソフィー、来週花火大会があるんだ。一緒に見に行くか?」
「はなび、みたい」
俺の部屋でジュースを飲みながらソフィーが答える。
来週の予定が決まった。早速母さんにその話をする。
「あら、花火大会ね。いいわよ、行ってらっしゃい」
いつもなら小言を言ってくるのに、今回は何も言ってこない。
「じゃ、小遣いよろしく」
「はいはい。あ、あとでソフィアちゃんと買い物行ってきてもいいかしら?」
「ソフィーと買い物?」
「そ、お買い物」
微笑む母さん、いったい何を買いに行くのだろうか。
そして、むかえた花火大会当日。圭介を誘ったが田舎に帰っているらしく今回は来ることができない。
一応麗華にも声をかけたが夏期講習が入っており、今回はパス。結局二人で行くことになった。
俺は一人で部屋に残り、甚平を着こむ。めんどくさい、普段着でいいのに……。
母さんに無理やり渡された甚平、何とか着れたけど変じゃないかな?
母さんはソフィーと隣の部屋で準備中。何でこんなに時間がかかるんだよ。
早く会場に行って、いろいろと買い食いしたいんだけど……。
「ゆいとー、おまたせー。ちょっと来て」
「遅い! 花火始まっちゃうだろ!」
母さんに呼ばれ、急いで隣の部屋に行き扉を開ける。
「なんでそんなに時間が──」
「ごめん。きるのじかんかかった」
そこには浴衣に身を包んだソフィーが立っていた。
隣には母さんが満足そうな顔で微笑んでいる。
「どう? ソフィアちゃん可愛いでしょ?」
ソフィーの浴衣は白をベースに淡い色の朝顔が描かれている。
そして、濃い紫の帯と、髪を結ったところについている簪(かんざし)。
俺は早くも心を奪われたのが二回目になってしまった。
「まぁ、似合うんじゃない? うんうん、かわいいねー」
はずかしいので、適当に話を合わせる。
「ありがとう。はなびたのしみ」
ソフィーは笑顔を俺に向け、その表情は天から舞い降りた天使のようにも見える。
ソフィーは可愛い巾着と小さな黒いポーチを持っており、出かける準備は終わっているっぽい。
俺もすでに準備は終わっているので、早速花火大会に出発だ。
「いってきまーす」
「行ってらっしゃい。迷子にならないようにね。ソフィアちゃんの事、くれぐれもよろしくね」
二人で初めて混雑するイベントに行く。少し心配だけど、ソフィーは大丈夫だろう。
以前と比べても多少は話せるしようになったし。
駅に着き、電車を待つ。ちらほら浴衣姿の人が何人か目に入ってきた。
「ゆいと、これもってきた」
ソフィーが黒いポーチから取り出したのはカメラだった。
「カメラ持ってるのか?」
「パパのかりてきた。しゃしんほしい」
そうか、ソフィーも写真を撮りたいのか。さすがカメラマンの娘。親子ですね。
「とったしゃしん、おもいでにしたい」
……ソフィーはいつか帰国してしまう。俺が絶対にいけない場所に。
そして、二度と会うことはないだろう。
「よし、ソフィーをモデルに俺がたくさん撮ってやるよ。カメラ貸して」
父さんにデジカメを借りて写真を撮ったことがある。きっと大丈夫だろう。
電車に乗り、花火大会の行われる会場に着く。思ったよりも人が多い。
「思ったよりも混んでるな……」
「ゆいと……」
ソフィーは少し躊躇している。
「大丈夫だって。日本の花火はどこでもこんな感じなんだ。ほら、迷子にならないように」
もしかしたら花火会場に来るのは初めてなのかもしれない。だったら思いっきり楽しんでもらわないとな。
俺はソフィーの手を握り、歩き始めた。
「ゆいと?」
「絶対に離すなよ。絶対だからな」
フリじゃないよ、迷子センターに呼び出されるとか嫌だからな。
「はなさない。ぜったいにはなさない」
二人で会場を回る。たこ焼きに大判焼き、クレープにチョコバナナ。
射的をして、水ヨーヨを釣ってお祭りを楽しんだ。
「たのしい。まいにちおまつりならいいのに」
「そうだな。お祭りは楽しいな」
借りたカメラで何枚も写真を撮る。うまく撮れているのだろうか?
「お、写真とるのか? どれ、おっちゃんが二人を撮ってあげるよ」
近くのおじさんが声をかけてきた。ソフィーの思い出にか……。
「お願いします」
おじさんにカメラを渡し、写真を数枚とってもらった。
「ありがとうございます」
「じゃ、お祭り楽しんでな」
ソフィーと二人で写真を撮ってもらった。
──ドーーーン
「ゆいととふたりのしゃしん。うれしい──」
ソフィーが何か言ったが、花火の音で聞こえなかった。
「花火始まった! もっと見えるところに行こう!」
会場の奥、河川敷にも花火が良く見える場所がある。あそこまで行けば、ここよりも人が少ないはず。
ソフィーの手を取り、少しだけ走る。
握った手は俺と同じくらいの大きさ。
周りに人が少なくなり、ゆっくり花火を見ることができる場所を見つけた。
手をつなぎ、夜空を見上げるソフィーの横顔は幻想的で、きれいで、本当に夢のように感じる。
年は同じ。
俺よりも少しだけ背が高いソフィー。
アイスを笑顔で食べるソフィー。
おなか一杯になって満足しているソフィー。
ゲームで負けると悔しがるソフィー。
牛乳を飲むときにひげを作るソフィー。
寝起きの時は髪がぼさぼさなソフィー。
日本が好きなソフィー。
がんばり屋で少し寂しがりやのソフィー
そして──
「はなび、きれい。ありがとう。いっしょにみることできて、うれしい」
花火を見上げ、その光を浴びるソフィー。
「よかったな」
ソフィーは見ていた花火から視線をずらし、真剣な目を俺に向けゆっくりと口を開き始めた。
「ゆいと」
いやでも鼓動が早くなる。隣でこんな至近距離で俺を見ないでくれ。
青くきれいな瞳、さらっとした銀の髪、大人っぽい表情、そのすべてが俺の体をおかしくさせている。
「な、な、なんだよ」
「わたし、かえる。もう、あえなくなる。さみしい」
一気に血の気が引いた。いつか来るとわかっていた。
でも、もしかしたらずっと来ないと期待していた自分もいた。
高まった感情を殺し、顔に出さないようにする。
「そっか。やっと自分の国に帰ることができるんだ。もっとよろこべよ」
「にほんもごはんもすき。パパもしゃしんもすき。ゆいとも──」
──ドーーーン
「これにて、本日の花火大会は終了となります。お帰りの際は──」
花火大会が終わってしまった。
ソフィーと出かけるもの、これが最後なんだと実感してしまう。
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