第13話 初めてのお泊り
「はーい。忘れ物ないねー」
空は赤と紺のグラデーションがかかったきれいな空色へ変わり、一番星が見え始めた。
「じゃ、みんな車に乗ってー」
「ゆ、唯人……」
少しだけ顔いろの悪い圭介。
「どうした?」
「少しだけ気持ち悪い。前に乗ってもいいか?」
「気持ちが悪い?」
「食べすぎかもしれないし、スライダーのしすぎかもしれない」
あんだけ食べて、ずっとスライダーしかしていなかったしな。
「別にいいよ」
圭介が助手席に乗り、残りのメンバーはみんな後部座席。
「シートベルトしたねー」
「「はーい」」
「では、帰ります!」
ずっと昼寝していた父さんは元気だ。でも、首の後ろとか真っ黒になっている。痛くないのかな?
車が出発し、しばらくすると圭介は寝た。さっきから俺も頭がボーっとしている。あ、羊が空飛んでる。
「んっ……」
右の肩が突然重くなった。視線を向けると麗華が寝息をたてている。
さらに膝が重くなった。ま、まさか──
「ゆいと、ぷーるたのしい……」
ソフィーは俺の膝に頭を乗せ、夢の世界に旅立っている。俺たちのパーティはー全滅だ……。
「なんだ、みんな寝たのか」
「寝た」
「唯人も寝ていっていいぞー」
「そうする……」
帰りの車に住む魔王、睡魔には誰も勝てなかった。
涼しい車内、流れてくる音楽が俺を夢の世界に旅立たせる。
みんな、今日は楽しかったよな……。
※ ※ ※
父さんは圭介と麗華をそれぞれの家まで送り、俺たちも無事に帰ってきた。
起こされるまで気が付かなかったが、ソフィーはまだ寝ている。
「おい、起きろ。着いたぞ」
「んー」
頭を何度かなで肩もゆするが、起きる気配はない。
「父さん、ソフィー起きないんだけど」
「しょうがないな。よっぽど疲れたんだな」
父さんはソフィーを抱っこして俺のベッドに寝かせた。
「起きるまでそっとしておいてあげな」
「そうする」
俺の部屋で寝息を立てる異国の女の子。寝顔がやっぱりかわいいと思ってしまった。
ソフィーを部屋に残し、台所に行く。
「ソフィーのお父さんは?」
「今日も遅くなるって。一緒にご飯食べて、今日はうちで預かるよ」
今日も帰りが遅いのか。仕事、大変なんだな……。
「んー、ゆいと……」
起きてきたソフィー。髪がぼさぼさだ。
「あら、起きたの? 先にお風呂入っておいで」
母さんに言われ、ソフィーはお風呂場に向かった。
そしてソフィーが上がったら俺も風呂に。そして、夕飯を食べる。
この日、初めてソフィーはうちに泊まった。
父さんと母さんが寝た後も、こっそり起きて遅くまで色々話した。
全部伝わっているわけではない、でもたくさん話したい。もっと、ソフィーの事を知りたい。
「ゆいと、がっこうたのしい?」
「それなりに楽しいよ。ソフィーは?」
「わたし、がっこう、きらい。いきたくない」
学校が嫌いなのか? 勉強が嫌いとかかな?
「いえ、いどう、おおい。ともだち、いない」
「家、移動? 引っ越しか? 友達いないのか?」
「いっしょに、かいものたのしい。あそぶのたのしい。ぷーるたのしい」
ソフィーはなぜか悲しそうな声で話す。楽しいはずなのに、悲しそうな表情。
でも、いつか帰るんだろ? だったら、それまでは楽しいこと沢山しようぜ!
「ゲーム、するか?」
「げーむする」
音を出したら親にばれる。
音をたてないように、ボードゲームを準備し、ベッドの上で対戦。
「うぐっ、また負けた」
「ゆいと、よわい。つまらない」
「もう一回」
そんな夏休みの夜、俺は寝落ちするまでずっと遊んでいた。
──ジリリリリ
目が覚める。体が重い。昨日のプールのせいか……。
ゆっくりと目を開けると、銀色の髪が視界に入ってきた。
ソフィーは上半身を俺の胸に乗せ、まだ夢の世界に旅立っているようだ。
「うわぁぁぁぁ!」
思わず声を出す。
「ゆい、と? おきた」
「な、なんでソフィーが──」
思い出した。昨日遅くまでゲームしていたんだ。
「お、お、おはよぅ……」
キョトンとしているソフィーの顔をまっすぐ見れない。多分俺の顔は赤くなっている。
寝起きの女の子の顔、こんな間近で見ることになるなんて……。
「ゆいとー、ソフィアちゃーん! 起きたら顔洗って、ごはんにしてー」
「はーい!」
俺はベッドから起き上がり、ソフィーに手を差し伸べる。
ソフィーは少し寝ぼけながらが俺の手を取り、起き上がった。
「ありがと」
「ご飯にしようぜ」
「んっ。にほんのごはん、おいしい。スクランブルエーーーッグすき」
いや、それはどの国でも同じなんじゃないか?
今日もソフィーとの一日が始まった。
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