第12話 プールにやってきた!


「みんな揃ったなー」


 プールサイドに一人の大人。


「圭介! スライダー行こうぜ!」

「行く行く!」

「あんた達、ちょっとしゃぎすぎ」


 とは言いつつ、麗華もさっきから笑顔が絶えない。


「ぷーるたのしい」


 お父さんが立てたパラソルの下でソフィーがつぶやく。

 

「まてまてまて! 準備運動してからだ! 唯人、圭介君、麗華ちゃん、ソフィアちゃん。しっかりと準備運動してから──」


 俺と圭介は準備運動を適当に済ませ、ダッシュでスライダーの入口を目指す。


「準備運動終わり! 圭介行くぜ!」

「おうよ!」

「あっ、待ちなさいよ!」

「わたしも、いく」


 みんなでスライダー。プールと言えばスライダー。早く順番が来ないか、待ち遠しい!


「唯人、私に何か言うことないの?」

「ん?」


 麗華は何を期待している?


「背、伸びた?」

「違う! これよこれ!」


 水着の肩ひもを指で引っ張っては離して、指で引っ張っては離して。

 どういえばいいの?


「れいかちゃん、みずぎかわいい」

「でしょー。今年新しいの買ったの! さすがソフィーちゃん、話が分かるわね。どっかの鈍感男子より、よっぽどまし!」


 そこで何で俺を見るんだよ。

 子供だけではちょっと危ないかも。ということで休みだった父さんを無理やり引っ張て来た。

 父さんは荷物番として、しっかりとプールサイドで寝ている。ありがとうございます。


 スライダーを何度もして、流れるプールで流れて、波の出るプールで軽く溺れる。


「「いただきまーす」」


 持ってきたおにぎりと、売店で買った焼きそば、フランクフルト、焼き鳥。プール最高!


「ほら、ソフィーも食べろよ」

「たべる」

「唯人、女の子はそんなにたくさん食べないの。あ、その焼鳥取ってよ、タレの方ね」

「はいはい……」

「唯人、この後どうする? 流れる?」


 おにぎりを食べながら圭介が聞いてきた。一通り回ったからな。どうしようか……。


「まだ帰るまで時間あるし、自由行動でいいんじゃないか?」

「オッケー、じゃぁ僕はスライダー十回くらい行ってくるね」

「きつくね?」

「大丈夫、大丈夫」


 昼ごはんも終わり、俺は少しだけ休むことにした。

 圭介はスライダーに。ソフィーは麗華と一緒に流れるプールに行くと、二人乗り用の浮き輪を借りてきて、旅立った。


「唯人、お前は行かないのか?」

「食休み。えっとさ、今日はありがとう」

「なんだ、お前らしくないな」

「父さんがいなかったら、荷物番いないし、こんな豪勢な昼にもならなかった」

「ふん、感謝しろ。今くらいしか遊べないのは大人だったら知っているからな」


 大人になったら遊べないくなるのか?


「あのさ、ソフィーの事なんだけど……」


 いつ帰るの? 父さんに聞いたら答えてくれる?


「ずっとは日本にいないだろうな。いつかは帰る。それまで沢山のいい思い出を作ってやれよ。お前のミッションだ」


 俺のミッション。ソフィーに楽しい思い出を作る。


「そうだね。きっと俺にとってもいい思い出になると思うよ」


 父さんはバッグからお金を出し、俺に差し出した。


「かき氷」

「はい?」

「父さんは今、ものすごくかき氷食べたい。ブルーハワイでよろしく」

「はいはい」


 父さんにかき氷をパスして、流れるプールにやってきた。


「ゆいと」


 後ろから声を掛けられる。



「なんだソフィーか。あれ? 麗華は?」


 一緒に麗華もいたはずなのに。


「れいかちゃん、けいすけによばれた」


 指さす方向はスライダー。


「ソフィーは一人で流れていたのか」

「これたのしい。ゆいと、ここのる」


 浮き輪に乗って流れる。ただそれだけ。

 二人乗りの浮き輪の一つが空いている。


「俺も乗るのか?」

「ふたりでのるとたのしい」


 ソフィーと向き合って浮き輪に乗る。

 これといった会話はない。でも、ソフィーの笑顔を見ているだけで、こっちも楽しい気持ちになれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る