第11話 水着を買いに行こう


「「いってきまーす」」


 翌日、少し遅めに朝ごはんをソフィーと一緒に食べた。

 まだお箸は難しいようで、フォークとスプーンを使って食べている。


「暑い……。早くモールに行ってこの暑さから逃げよう」


 真夏の道路から、心地よいモールへ到着。おぉ、ここは天国か?


「やっと着いたな。買い物の前に何か飲むか」

「じゅーす、あれ」


 ソフィーの指さす方にはアイスが乗ったメロンソーダののぼりがあった。

 アイスにジュースのコンボ。いいね!


「よし、早速買いに行くか!」

「いく」


 ソフィーと手をつないで看板のある店に行く。


「すいません、これ二つ」


 手に入れたクリームソーダ。これが、なかなかうまいんですよね。


「その辺に座って飲むか」


 モールの中庭っぽいところにあるベンチに腰掛ける。

 ここなら涼しいし、一休みにはもってこい。

 隣に座ったソフィーはアイスをつつきながら、真剣に食べている。


「うまいか?」

「これ、おいしい。ゆいと、これすき?」

「好きだよ。うまいし、冷たいし」

「わたしも、すき」


 笑顔で話してくるソフィーに、少しだけドキってしてしまった。


「二人で何しているの?」


 視線を上げると麗華が立っている。


「麗華こそ何してるんだ?」

「参考書買いに来たんだけど、唯人とソフィーちゃん二人だけ?」

「ん? 二人で来たけど?」


 あ、また麗華の目つきが怖くなった。


「そ、そうなんだ……。えっと、二人で買い物かな?」

「そうそう。プールの招待券もらったんだけど、ソフィーが水着持ってないからって──」

「私も行く」

「はい?」


 なんかすごい剣幕で俺を見てくる。


「唯人、ソフィーちゃんと二人なんだよね?」

「そ、そうだけど」

「ソフィーちゃんの水着、買いに来たんだよね?」

「さっきも言っただろ? そうだよ」


 麗華はソフィーの腕をつかみ自分に引き寄せた。


「こっちと向こうじゃ女の子の流行が違うかもしれないでしょ? 私が選んであげる」

「いや、別になんでもいいだろ?」

「よくない。ソフィーちゃん、唯人は放っておいて行こう」


 麗華は俺をその場に残し、さっさと二人で歩いて行ってしまった。


「ちょっと待てよ!」

「ゆっ、ゆいと……」


 女子二人を追いかけた。が、結局俺は店の外で待機している。

 非常に入りずらい。


「これなんかどう? こっちは?」

「どれでもいい」

「そんなこと言わないの! ほら、こっちは可愛いし、こっちは──」


 ポクポクポクチーン。二時間、いや二時間半か? 買い物が長い。

 水着一着にどれだけ時間かけてるんだ! イライラマックスになった俺は、店の中に入り二人を探す。

 どこだ、どこにいる……。あ、いた!


「終わったー?」

「すこし、ちいさい?」


 試着室前に麗華が立っている。そして、足元のカゴには水着が何着も。

 どれだけ集めてるんだ。


「麗華、もういいよ。長すぎ」

「唯人、ちょうどよかった。ソフィーちゃん、開けるよ」

「あっ、まだ──」


 試着室のカーテンが開き、中で着替えていたソフィーが俺の視界に入ってくる。


 白のフリルが付いたワンピースタイプの水着。つか、脚長っ! ソフィーは俺よりも少しだけ背が高いけど、脚は絶対にソフィーの方が長い。

 髪も後ろでまとめており、なんだか新鮮な感じがする。


「ゆいと、あまりみない」


 ソフィーの姿を見て、体が動かなくなった。


「何凝視してるのよ、見すぎなんだけど?」

「あ、あぁ、悪い」

「唯人、他にいうことないの?」


 ほかに言うこと?


「か、可愛いいよ?」

「かわいい……」

「でしょ? いろいろ着てもらったけど、これが一番ソフィーちゃんに似合うと思うの。どう?」


 どや顔でふんぞり返る麗華。確かに可愛いと思う。ほかの水着は見ていないけど、多分これでいい。


「いいんじゃないか?」

「これにする。かわいい、いわれた」


 さっきまで機嫌の悪かった麗華も、なぜか機嫌がよくなっている。

 ソフィーの着替えが終わるまで、しばらく麗華と二人で待つことになった。


「助かったよ」

「別に、唯人の為じゃないし。どうせ、適当に選ぶつもりだったんでしょ? あぁ、ソフィーちゃんかわいそうに……」

「本人がこれがいいって言ったら、それにするよ。でも、助かった。サンキュ」

「いえいえ、明日のプール楽しみだね」


 ん?


「麗華もプール行くのか?」

「行くわよ? 五人まで行けるんでしょ?」

「は? 夏期講習ってあるんだよな?」

「明日はないの。たまたま休みなの。私も一緒に行ってあげる」 

「一緒に行くのか?」

「当たり前でしょ? なんで唯人たち二人っきりで楽しもうと思ってるの? ひどくない?」


 別にいいけどさ、圭介も誘ってみんなで行こうっと。


──シャーーーー


「おわった」

「おかえり。どれ、じゃぁ会計してくるか」


 渡された白い水着。さっきまでソフィーが着ていた──。

 考えるのはやめよう。


「四千四百円です。袋はご利用されますか?」

「いえ、袋は持ってきました」


 会計後、持参したエコバッグに水着を入れる。

 クリームソーダ二杯で六百円。水着が四千四百円。合計ぴったり五千円。


「いい買い物したわね。まだ何か買うものあるの?」

「何もないよ……」


 手持ちのお金がもうない。


「だったら帰るわよ」

「お前が仕切るなよ」


 三人でモールを後にする。途中、麗華と会ってしまったが、ソフィーも喜んでいるし結果オーライ。


「プール楽しみだな!」

「あしたは、ぷーる」

「遅れないでよねっ」


 三人で帰る帰り道。今までとは違った夏休みが始まった。

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