第10話 無料招待券ゲットだぜ
「じゃ、またな」
「うん、唯人もしっかり勉強しなさいよね」
「あー、するする」
暑い、体が溶ける。それにしても重い、なんでこんなに荷物があるんだ……。
麗華の奴、夏期講習って言ってたな。でも、何でそんなに勉強するんだ?
受験って高校からだろ?
「た、ただいまー」
家に入ると冷んやりした風が、俺を包まなかった。
「暑い! 何だこの暑さは! エアコンスイッチオーーン!」
荷物を玄関に放り投げ、エアコンのスイッチを押す。 ふぅ、これで何とかなるかな。
自分の部屋に行ってみるとソフィーがいた。
扇風機の目の前に座り込み、風を顔面で受けている。後ろになびく銀色の髪が少しだけ幻想的に見えてしまった。
「……何してるんだ?」
「ワァレワァレワァァァァァ」
扇風機と言ったらこれ。なぜかみんなする宇宙人ネタ。
「どっから覚えたそんなこと」
「レイカ。ニホンノコドモ、ミンナスル」
確かに俺もしたけどさ! なに余計なこと教えてるの!
俺は冷凍庫からアイスを二本手に取り、一本をソフィーに渡す。
「ほれ、暑いだろ。一本やるよ。つか、エアコン使えよな」
「アリガト。ンー、オイシイ」
「母さんは?」
「オカサン、カイモノ。スグカエル」
なんでエアコン消していったんだよ、危ないじゃないか! 熱中症になったらどうするんだよ!
アイスも食べ終わり、部屋でエアコンの風と遊びながらだらだらする。
夏休み最高。
「ユイト」
「ん?」
ソファーで転がっている俺とソフィー。エアコンの風が直接で当たるこの位置からなかなか抜け出せない。
コタツの魔力とエアコンの魔力はかなり強力だ。
「イッショニ、クル」
ソフィーは立ち上がり、俺の腕をつかんで立たせる。なんだ? 何かあるのか?
「ユイト。ヘヤ、ハイルトイイ」
ソフィーに手を引かれ初めてソフィーの部屋に入った。
殺風景だけど、少しだけ可愛い雑貨が飾ってある。が、変な人形も置かれている。
「ソレ、モールデカッタ。ユイトイッショ」
そういえば、初めて一緒にモールへ行ったとき何か買っていたな。
「コレミル。パパ、シャシン、トル」
そこには、ソフィーのお父さんが撮影したと思われる写真。
渡されたアルバムを開くと見たことない風景、見たことのない色があった。
体に何かが駆け巡り、少しだけ体が冷えた気がした。
「これ、ソフィーのお父さんが……」
心を奪われるって言葉があるが、それを初めて体験した。初めて写真がきれいだと思った。
日の沈む、真っ赤に染まった荒野。
どこまでも透けて見える、真っ青な海。
見ているだけで凍えてくる、凍った林。
そして、その中にソフィーの写真もあった。今よりも少しだけ小さなソフィー。
「ソレ、ワタシ。チイサイ」
「そうだな、かわいいな」
誰もいない二人っきりの空間。そして、超至近距離で視線が交差する。
お互いの呼吸音が聞こえてきそうな距離。次第に高まる鼓動。
ソフィーは頬を赤くし、そっぽを向いてしまった。
「パパ、シャシンタイセツ。ニホン、ダイスキ。イツモ、ワタシヒトリ」
「よく日本に来るのか?」
「ニホン、クル。デモ、スグニカエル」
「そっか……」
やっぱり帰るんだよな。ずっと、いるわけじゃない。
わかっていた、わかってたさ。
※ ※ ※
夏休みに入り数日が過ぎた。あいつらとはあの時からあまり遊んでいない。
そのかわりソフィーといる時間が自然と増えていった。
夏休みには近所の神社でお祭りもあるし、花火大会もある。
今年はソフィーと一緒に花火を見る。そんな予感がしていた。
「はい、ここから読んで」
「はーい。かめはうさぎにまけないように、やすまずはしりました。そして、かめはうさぎよりもさきにやまのてっぺんについたのです」
「はい、よくできました! では、おやつのカップアイスです!」
「おー、おいしそう。いただきまーす」
ソフィーはさらに日本語がうまくなって、文字も少し読めるようになった。
そして、会話も以前ちょりもできるよにになっていた、と思う。
「しかし、今日も暑いな……」
「にほん、あつい……」
へらでアイスとつつきながら、二人でぐったりする。この暑さ何とかならないかな。
「唯人ー」
「なにー」
台所から母さんの声が聞こえた。
「町内会で招待券もらったけど、行ってくるかい?」
「なんの招待券?」
渡された招待券はまさに奇跡の一枚! 市民プールご招待券ゲットだぜ!
期限は夏期営業期間であればいつでもオッケー、しかも一枚で五人分! ありがとうお母様!
「行く! お母さん、一生のお願い三回目! お小遣い……」
「……何回目? あんたの一生は何回あるの?」
「転生するから無制限! お願いします! 来月か再来月返すから! ほら、ソフィーも暑がっているし、プール行きたいよな!」
ソフィーにチケットを見せ、一緒に行くかと促(うなが)す。
「ゆいと、わたし、みずぎない」
……盲点。
「あら、水着持ってきてなかったの? それじゃぁ……」
無念。ソフィーは自宅待機で、圭介と一緒に行ってくるかな……。
「唯人、明日モールに行って買っておいで。ほら、余ったらお小遣いにしていいから」
母さんは財布から五千円もくれた。なんだと、こんな大金もらえるのか!
いくら余る? 四千円は余るのか? ウハウハじゃないか!
「ゆいと、かおへん。わらってる」
「笑ってない! ソフィー行くぞ! 水着を買ってプールに行く!」
「プール、たのしそう」
微笑むソフィー、きっとプールが好きに違いない!
暑い夏、日本の夏。そして、そんなときはプール!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます