第2話 麗華の小言


 今日も何事もなく学校が終わり、音をたてないように玄関を開ける。

 そっとランドセルを部屋に置き、ゲーム機をバッグに入れ再び玄関に戻った。

 ふぅ、早く公園に行かないと……。


──ガチャ


 脱出成功、自転車へまたがりいざゆかん!


「唯人(ゆいと)! 宿題は!」


 見つかった! 音を立てていないのに、さすが母さん!


「帰ったらする! 行ってきまーす!」

「あっ! こらっ! 先に宿題──」


 母さんの声を聞きながら急いで公園へ向かう。今日はいつものメンバーと公園で遊ぶ約束をしていた。

 先に宿題をしていては約束に間に合わない! 帰ったらするよ、帰ったらね。


「唯人(ゆいと)! 遅い!」

「そう言うなよ、これでもダッシュで来たんだぜ?」

「ほら、みんなもう待っている。早く対戦しようぜ!」


 公園の土管に腰かけ、集まったメンバーで対戦を始める。


「っく、圭介(けいすけ)それは卑怯じゃないか?」

「ふっ、そんなことはない! ほれほれほれー」

「あー!」


 白熱する対戦。夏の太陽を浴びながらするゲームはこれだからやめられない。


「……あんたたち何しているの?」


 ふと視線を上げると、腕を組んでこっちを睨んでいる女子がいる。


「なんだ、麗華(れいか)か。見てわかるだろ? 対戦してるんだ」

「これだからあんたたちはガキなのよ。そんな事より今日の宿題終わってるの?」

「終わってるはずないだろ?」

「今日の宿題結構難しいのよ?」


 うるさいな。宿題なんて適当にやって先生に出しても問題ないだろ? それよりも今はゲームが楽しい!

 麗華は肩にかかった髪を手で薙ぎ払い、こっちに向かって歩み寄ってくる。

 なんだかいつもよりも嫌な感じがする。


「唯人(ゆいと)さ、ここ最近成績悪くなってない?」


 図星。実はここ最近、テストの点数がだんだんと悪くなっている気がする。

 勉強は多少しているよ、多少はね。


「まぁまぁ、麗華(れいか)ちゃんもそこまで言わなくても……」

「圭介(けいすけ)は黙ってて」


 麗華の目は鋭く、圭介を睨んでいる。


「は、はい……」


 おい、圭介。もっと言い返せよ、何で半泣きで肩を落としているんだ?


「わ、私があんたの勉強を見てあげてもいいんだけど?」


 っう。確かにこいつは勉強ができる。それに、クラスでもトップクラスの運動神経をもち、さらに男子からも人気がある。

 だが、俺にも譲れないものがあるのさ。


「女に勉強なんか教われるかよ。自分でするからほっといてくれ」


 どうせ、勉強といいつつ俺の事をバカにするんだろ? そんなやつと勉強なんてこっちから願い下げだ。


「ふーん、まぁいいわ。私の方はいつでもいいから。ほら、帰って宿題しなさ──」

「あーーー! 忘れてた! 今日はあっちの公園で遊ぶ約束していたんだよな! な、圭介!」


 視線を圭介に向け、俺は必死に何かを伝える。

 無言でうなずく圭介、流石マブダチ。心が通ったぜ!


「じゃ、唯人だけ帰るんだな。おーい、唯人は用事があるから俺たちだけで続きしようぜ」


 なぜそうなる! 優しい微笑みとは裏腹に俺は麗華に連行され、渋々家に帰ることになった。


「じゃーな」


 くっそ、こいつさえいなければ……。


「あんた、ちゃんと宿題しなさいよ」

「わかってるよ! いちいちうるさいな!」


 玄関を開け、中に入ろうとした。が、麗華はなぜか俺の方をずっと見ている。


「何見てるんだよ」

「なんでもないわよ」

「お前も早く帰れよ。親が心配するんじゃないか?」

「言われなくても帰るわよ。誰もいないけど……」


 そう麗華はボソッと言ったと、少しだけ寂しそうな背中を見せ、帰っていった。


──ガチャ


「ただいま」

「早かったわね」

「麗華につかまった」

「麗華ちゃんに?」


 母さんの話もそこそこ、自分の部屋に戻りベッドに転がる。全く宿題なんてめんどくさい。

 転がりながら再びゲームを起動させ、一人でプレイ。圭介の奴うまくなってたな、次は負けられない!

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